オトメイト

□繋いだ手と手
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海岸沿いに一人で歩いていると後ろから、名前を呼ばれた。それは世界で1番大好きな人の声。
「千鶴」
彼の呼びかけに応えるように後ろを振り返り彼の名を呼んだ。
「左之助さん」
「家にいないから心配したんだぜ?・・・やっぱり、ここにいたんだな」
そう言うと左之助さんは海の遙か彼方を懐かしむような瞳で見つめる。正確には彼が仲間と共に過ごした時間を懐かしんでいるのだろう。やがて、ぽつりと左之助さんが私に問いかけてきた。
「なぁ、日本が恋しいか?」
「え・・・?」
思いもよらなかった質問に思わず目を見開く。
「そ、そんなことは・・・」
ない、とは言い切れない。今はもう遙か地平線の向こうにある生まれ育った国。嬉しかったことも悲しかったこともあったけど全部が今では私の大切な想い出の一部だ。その中には勿論、今は亡き父との想い出も左之助さんや新選組のみなさんとの日々があって今の私がこの場所にいるのだと思う。

だからといって今
この異国の地にいることが嫌だってわけではないから。


「違うと言えば嘘になります。ですが、帰りたいとは思ってません。それに私はあなたと共にいられるのなら、それだけで幸せなんです」

それに、ここでは私の身体に巡る雪村の鬼の血に縛られることはない。だから、左之助さんの傍で普通の女として生きられる。
鬼である私が普通の幸せを求めるなんて贅沢な事はわかっていたけど、それでも。左之助さんの隣にいたい。そう願っているから。

「千鶴、変なこと聞いちまって悪かったな」
「左之助さんはどうなのですか?私とここにいることを後悔していませんか?」
「俺も千鶴と同じだよ。俺はすでに千鶴を選んだんだぜ?後悔なんてしてねぇよ」
左之助さんに手を差し延べられ、躊躇わずに私はその手に自分の手を重ねる。
「ほら、帰ろうぜ。身体が冷えちまうだろ?」
これ以上ここにいて風邪を引かせたくねぇからな、と苦笑いを含めた笑みで彼が続けて言う。
「はい!左之助さん」

そしてお互いの手を握り歩き出す。繋がっている手をぎゅっと握られる。それはまるで左之助さんにこれからもこの手を離さないって言われているみたいで。私も彼の手を強く握った。


繋いだ手と手
この手だけは絶対に手放さない。

END
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