遙かシリーズ
□重なる面影
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「ここから見える夕焼けが好きなんだ」
姫君にサイコーの景色をみせてやるよ。
そう言ったヒノエに連れられて着いた場所は前の時空で彼と一緒に夕陽を眺めた場所。
あの時空で同じセリフを言った彼と目の前の彼が望美の中で重なって見えて一瞬目を疑った。
(ヒノエくんの熊野への想いは絶対に変わらない)
時空は違ったとしても、ヒノエが熊野を大切に想っている気持ちは変わらないのだと知って嬉しく思うのと同時にこの地が羨ましいとも感じる。
同じようで違う人。
『またここで夕焼けを見よう』
この約束をした彼は目の前にいるヒノエではなく違う時空の彼だがまた夕陽を一緒に眺めることが出来て嬉しいと思ってしまう。
同じ熊野の夏の日に違う時空でこの夕焼けをヒノエと一緒に眺めることになるとは思っても見なかった出来事だから。
「望美?」
「……。うん?」
ヒノエの呼びかけに気がついた望美は我に返った。
(過去をいつまでも引きずっていちゃだめだ。今度こそ私が守るって決めたんだから)
「どうしたんだい?心ここにあらずって感じだったけど、あまりの綺麗さに見入ってしまったかな。それとも……夕陽ではなくオレに見とれていたかい?」
冗談めかして言ったヒノエだが、望美がヒノエではなく別の誰かを重ねているのは感じ取っていた。
それが誰かまでは分からない。
分かるのは、幼なじみの彼らとは関係ないことぐらいで。
「バカ……。ずっとこんな景色が見れたらいいのにって思ったの」
「なら、オレの隣にずっといればいい。
そうしたら、色んな熊野の景色をお前に見せてやる。春の日も夏の日も秋の日も冬の日も。四季を彩るサイコーの景色をいつもお前と共に見れるならそれ以上の贅沢はないだろ?」
「ヒノエくんと一緒なら毎日が楽しそうだね」
「ああ、お前にサイコーの暮らしをさせてやるよ。いい返事を期待してるぜ。姫君」
「もう……。ほら、そろそろ帰らないと朔やみんなを心配させちゃうよ?」
「本当はもう少し神子姫との逢瀬を楽しみたいとこだけど……仕方ないか。他の野郎どもがうるさそうだ。お手をどうぞ、姫君。宿までの間、オレに望美の手を預けてくれないか。……それまではオレだけの姫君でいてほしいからさ」
END
Title by秋桜さま