遙かシリーズ

□めぐる季節を重ねよう
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『お前にオレの願いを聞いてほしい。
……一年後に』

 あの約束からもうすぐ一年が経つ。
ヒノエの願いは望美を熊野に連れて行くこと。
望美が高校を卒業するまで待つと彼は言った。
 卒業を控えた3月のある日。
卒業考査が終わり、あとは数回しかない登校日のみ。
 この世界での思い出を少しでも多く持っていたいというヒノエの希望から
残された僅かな時間を望美はヒノエと共に過ごす約束をしていた。
 
 熊野へ彼と共に行く心の整理ならついてる。
ヒノエが与えてくれた一年間の猶予期間が大きかったのかもしれない。

(あとは、ヒノエくんに言うだけだ)

 一緒に熊野へ行こう。と彼はまだ口にしてない。


(私はもう充分すぎるくらい時間をもらった。
きっとヒノエくんが熊野に行こうと言わないのは
私の決心がつくのを待ってるから)

 時に強引に手を引くこともあるが、
望美が嫌がることはしないと知っている。
 
(よし。ちゃんとヒノエくんに私から伝えよう)

 今日、ヒノエと会う約束をした時からこの言葉を告げるのを望美は決めていた。
 これからの望美の人生や居場所を決める大事なことだ。
だからこそ、望美からヒノエに告げなければならない。
これは、自分で選んだ道だとしっかり胸を張って進むためにも。
  

「ヒノエくん。あのね、話したいことがあるの」
 有川家のリビングにお邪魔するとそこに彼はいた。
ソファーに座り小説を読んでいたヒノエに声を掛けると望美に気がつき
読んでいた小説を閉じ横に置く。

「急にどうしたんだい?」
 望美の真剣な眼差しに平常心を保ちつつも不安が胸をよぎる。
 
「ヒノエくんの誕生日って4月1日でしょ?
その日に渡したいものがあるの」
「姫君からの贈り物ならなんでも大歓迎だよ」 
「ヒノエくんに私をあげる」
「…え?それって…」
 望美の言葉に一瞬耳を疑い思考が一時停止になったヒノエは
間の抜けた声を出した。同い年なのに普段、余裕がある彼の
歳相応な反応に望美は口元を緩めたのを彼は知らないだろう。
 
(ヒノエくんのこうゆう反応って新鮮だなあ……。
本人はかっこわるいとか思ってるかもだけど嬉しい)

「私の未来をあげたいの。
私の隣をヒノエくんにするのと同時に
私の居場所を向こうの熊野にしてほしい。
この先、ヒノエくんとの未来を切り開くために」

 望美からずっと聞きたかった言葉を予想もしなかった形で聞くことになるとは
ヒノエは思いもしなかった。
 その言葉は、ヒノエが想像した以上に大きな喜びをもたらして
望美への想いが溢れ出す。
「望美……。ありがとう。サイコーの贈り物だよ」
 何よりも愛しい存在を抱き寄せると
彼女の温かい温もりがこれは夢じゃないことをヒノエに伝えてくれた。

(ああ、オレはなんて幸せなんだろう)

「ヒノエくん??」
「オレを選んだこと絶対後悔はさせねぇから」
「後悔なんてするはずないよ。私が決めた未来だもの」

 そして、近い未来にこの約束は果たされる。
かつて共に戦った仲間でもある彼女の幼なじみに見送られながら
二人は異世界の熊野へと時空を越えた。


*******

 
 望美がヒノエと熊野に来てから数週間。
 和議を成し遂げ源氏と平家の戦の幕は下りたこの異世界で望美は
ヒノエとの未来を歩むことを選んだ。
 大切なものと引き換えに選んだ道だが後悔はしてない。

(ヒノエくんとこの熊野の地で生きていく。
これが私が選んで掴んだ運命だから)


「やっぱり、この熊野の海が一番好きだなあ……」
 どこまでも青く続く海原を眺めながら望美が言った。
「嬉しいことを言ってくれるね。オレの奥方様?」
「もう、その呼び方恥ずかしいからやめてって言ってるのに……」
「いいじゃん。やっと望美とこの熊野の地で過ごす日々が手に入ったんだからさ。
お前が正真正銘、オレだけの姫君になったんだって嬉しいんだよ」

 望美がこれから先の未来をヒノエに渡し、生まれた世界ではなく
この世界を選び、ヒノエの隣にいることを決めてくれた。
 彼女が熊野を選ばない限り、そこで進む道が別れてしまうだろう。ヒノエには熊野を捨てるという選択はできない。だからと言って望美を諦めることも選択肢にはなくって。

「この熊野を…オレが守る大切な場所を
お前の居場所として決めてくれたんだ。
――誰でもないオレの隣を選んでくれた。
これ以上に嬉しいことはないさ。
望美はオレのただ一人の大切なお姫様だよ。ずっと一緒に生きていこう。
お前を世界中の誰よりも幸せにするよ。
熊野の神々とオレの名に誓って」

 
 


END
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