遙かシリーズ

□夕映えに包み込まれて
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 総司が屯所に任務を終え戻ってくると、近藤の大きい羽織を肩に掛けたゆきと羽織の持ち主である近藤の姿が視界に入った。

(あれは……。ゆきさんと近藤さん?)

 微かに聞こえた話声と総司が見たのは、ゆきが寒いだろうと気を使いゆきには大きすぎる羽織を掛けた近藤にお礼をいい微笑んだ彼女。
 いくら親しい仲で、家族同然として育ち、尊敬している近藤だとしても、ゆきが彼に微笑みかけるところを見たのは面白くない。そう感じた。相手が土方であっても、それは変わらないだろう。

 何かを考えるよりも先に総司の体が動き、気がつけば二人がいる方に足が向いていた。二人の間を割くようにして、間に立ち、ゆきに話しかける。

「ゆきさん。今日はどうしたのですか?」
「総司さん!総司さんとお話をしたくって、訪ねて来たんです。ですが、お留守だったようなので帰ろうとしたら近藤さんや土方さんに引き留められて気がつけば日が暮れちゃって……」

 ゆきが嬉しそうに総司の名前を呼び、彼の質問に答えた。およその見当はついていたが、ゆき本人の口から聞きたかったのもある。彼女が屯所に総司を訪ねて来て、ゆきの他に都や他の八葉が誰もいないと言うことは、ゆきがただ総司に会いに来たと思っていいだろう。

(ゆきさんに会えただけで、こんなにも僕の心は暖かくなる)

「そうなのですね。すみません。お礼になるかはわかりませんが、僕がゆきさんを送ります。ですから、近藤さんは戻って平気ですよ」

 近藤に言うと、総司は自分の羽織を脱ぎ、ゆきの肩に掛かっていた羽織と交換する。
答えは聞かないつもりなのか、近藤の言葉を待つことなく総司は先ほどまでゆきを包んでいた彼女には大きすぎる羽織を持ち主に押しつけるように渡し、彼は言葉を続けた。

「ゆきさんを送るのは僕ですので、近藤さんの羽織は返します。では、報告はゆきさんを無事、宿に返してからしますと土方さんに伝えといてください」
 そう近藤に言い残すと総司はゆきの手を握り夕暮れの京の町を歩き始める。ゆきは慌てて、後ろを振り向き近藤に会釈をすると総司に掛けてもらった羽織を握り嬉しそうに笑う。

 二人がその場所から去ったのと同時に、影から一部始終を見ていた土方が姿を現した。
「まったく総司のやつ、いつからあんな柔らかな表情するようになったんだ?」
「これも、ゆきさんのお陰だな」
「だな」 
 夕映えに包み込まれながら歩く二人の姿を見守るように見つめていた二人がいたことを彼らは知らないだろう。

*****

「ゆきさん、宿までゆっくり歩きませんか?あなたと少しでも長く一緒にいたいですから」
「はい。私も総司さんとお話したいです」
 夕焼け空の下で互いに顔を合わせ笑う。その距離は総司が顔を近づけたことで縮み、二人の唇が合わさり、影が重なった。

「総司さん…!いつも、急にしないでくださいって言ってるのに……」
「すみません。夕陽に照らされたゆきさんの微笑みがあまりにも綺麗だと思ったので。気がつけば、自然と口づけをしてしまいました」

 そう微笑む総司にゆきの顔が赤くなったのは言うまでもない。


END
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