遙かシリーズ

□優しく降り積もる淡い恋
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日光で天海を倒したが、まだ戦は終わってない。沖田総司にとって、八葉の役目が終わったとしても新選組・一番隊隊長、沖田総司としてのまだ戦が残っている。

「……ゆきさん」
ゆきが彼女のいるべき世界に戻って行くのを隠れて見届けた総司は呟いき、その場所を去っていった。
(僕は必ずあなたの元へいきます)
そう胸に誓いながら。彼が次に向かうのは、京だ。そこに行き、新選組に戻る。

最期まで、近藤勇や土方歳三、そして山南敬助が築いてきた新選組として「誠」を背負って戦う。そう彼は決めていたから。


あれから時間がどれくらい過ぎたんだろう。総司が所属していた新選組はなくなり、古き時代が終わり、新しい時代の風が吹き始めた。それは、坂本龍馬や高杉晋作、小松帯刀などかつて一緒に戦っていた仲間たちの働きもある。


戦の最中、総司は体調を崩し江戸での療養を余儀なくされた。
(本当、土方さんは強引だ)
けれども、自分の身体の不調は総司自身よくわかっている。朱雀という聖獣を操っていた過去の代償は容赦なく、彼の身体を蝕んでいくのだ。


「ゆきさん、僕はあなたに逢えて幸せでした」

瞳を閉じれば、数え切れない彼女との想い出が鮮やかに蘇る。雪がしんしんと降り積もるように彼女への想いは、静かに総司の中で恋心に変わっていった。

ゆきを守りたい。
その願いがあの日、彼を動かしたのだから。沖田総司という一人の男として、好きになった彼女の傍で共に戦い、守りたいと願ったのだ。

それは、今まで近藤や土方の指示通りにしか動くことのなかった彼が彼らに言った初めての意思かもしれない。

「ねえ、ゆきさん。僕はあなたが大好きです。この想いが、風になり、あなたの世界(もと)に届けばいいのに。そして、空を伝ってあなたの想いを届けてほしい。なんて、あなたを悲しませてしまった僕に許されるか分からないのに。そう思ってしまうのです」

彼女の姿を思い描き、語りかけるように言葉を紡ぐ。この世界に総司と共に残りたいと言った彼女を還したのは、関係ない戦にゆきを巻き込みたくなかったのとあと一つ。
彼はもうすぐ、自分の命の砂が消えかかっているのを感じている。ならば、この命は最期まで彼女が開いてくれた新しい夜明けの扉の先で散っていこうと思った。
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