遙かシリーズ

□さくらおとー幸せの音色ー
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 ゆきが龍神の神子として役目を終えれば消えると思っていた。彼女の進む道を照らす星になりたいと想いつつも別れる日を恐れていた日々。
 だが、その未来は消えた。瞬にゆきが与えてくれた新しい未来がここにあるから。もう躊躇うことなく、ゆきに接することができる。それが何よりも嬉しかった。

「今年も綺麗に咲きましたね」
「うん」

 瞬の横に寄り添り立ってるゆきに微笑みかけると彼女の髪に桜の花びらが付いていたことに気が付く。それを、彼女の髪に手を伸ばして取る。1枚の花弁が風に吹かれ地面に落ちた。

「髪に桜の花びらがついてましたよ」
「ありがとう」
「まったく、あなたは色々なものを惹きつけてやまないのですから。例え、桜の花びら1枚でもあなたに触れていいのは俺だけがいいというのはわがままでしょうか」

 あの世界から帰ってきてからというもの今まで我慢していた瞬の感情は表に出るようになった。瞬がゆきに触れることを躊躇う理由がなくなったのが一番大きいのだろう。
 瞬は、ゆきが答える隙を与えずにそっと顔を近づけて、静かに唇を重ねた。それは、ほんの一瞬の出来事で。

「瞬兄……っ」
 突然の出来事に驚き、顔を赤く染めた彼女。そして、慌てて周囲を見回した。ここは、庭で両親は、買い物に行っているのだから見られる心配はないだろう。仮に、見られていたとしても瞬が養子にならないなら、ゆきと結婚させることまで話を持ち込んでくる人たちだ。だいたいの想像は簡単にできた。


「ゆき、前に母さんが言っていたことを俺は本当にしてもいいと思ってます」
「お母さん、なんか言っていたっけ??」
「……ゆきがあの世界に行く前に電話で話した内容ですよ。覚えてませんか?」
 心当たりを探していくとある台詞を思い出して、顔が熱くなってるのがゆき自身わかった。

『瞬が桐生の姓を名乗るなら、瞬とゆきがいずれ結婚してくれたら言いかなーって』

「え…それって……」
(瞬兄のお嫁さんになるってこと……?)

「今すぐじゃありませんが……。俺が一人前の医者になれたら母さんたちに承諾を得るつもりです。この先も俺はあなたとの幸せな未来を望みたい。それをちゃんと形に残したいと思ってます」
「わ、私……」
「今すぐ、答えがほしいなんていいません。
ゆきもまだ学生ですし、俺たちの時間はこれからもたくさんある。だから、焦らなくっていいんです」

 答えならもう出てる。
 ゆきは、ゆっくり首を横に振った。

「そうじゃないの。瞬兄と結婚するなんてまだ考えてなかっただけ。それにね、ずっと夢だったことが現実になるなんて夢みたいだったから……」
 小さい頃からずっと瞬はゆきの兄的存在で憧れだった。

『大きくなったら、しゅんにぃのお嫁さんになりたい!』
 
 そう言っていた時期を思い出す。その時、瞬は真面目に断って、それを母親が笑っていたのを覚えてる。困った瞬を見かねてゆきの母は瞬に助け舟を出してゆきにこう言ったのだ。

『あのね、瞬はゆきのお兄ちゃんになるから、結婚できないの』
『じゃあ、しゅんにぃの傍にずっといれないの??』
『ふふ、お兄ちゃんなら結婚しなくっても一緒にいれるのよ。だから、心配ないわ』
『ずっと一緒…?ゆき、ずっとしゅんにぃと一緒にいる!』


「ねえ、瞬兄。覚えてる?私が小さい時に言っていたこと」
「覚えてますよ。あなたとの思い出ならどれも俺の記憶に残しておこうと思ってましたから。あなたとの思い出も、あなたへの想いも俺の中から消えることなどない」
「私も、瞬兄が好き。大好き。だから、ずっと瞬兄の隣にいたい。瞬兄は私の大事な人だから……。もう、手を離さないように握っていくの」

「俺はもうあなたを離しません。そして、この先もずっと守り続けます。星の一族の使命や八葉、神子など関係ない。俺はゆき、あなただから守りたいのです。ゆきの答えを聞かせてくれませんか」

 ぎゅっと瞬に飛びつき、ゆきは言葉を紡いだ。

「私……、これからもずっと瞬兄の隣にいたい。そして、瞬兄に頼ってばっかじゃなくって、瞬兄を支えられるように頑張る。だから――…ずっと、私の傍にいてね」


 穏やかな風が吹き、桜吹雪が舞う。
 それは、二人の幸せを祝福するみたいに。
 桜が告げた幸せの音色が鳴り響くのは遠くない未来かもしれない。


END
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