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□お姉ちゃん。〜遊子〜
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ある日、お兄ちゃんが女の人を連れてきた。
私とほぼ変わらない身長。
華奢な細い体。
艶めく綺麗な紫のかかった黒髪。

その人は本当に、お世辞じゃなくて本当に
綺麗だった。
お父さんも「ほほーう・・・」と
ニヤニヤしていたけど、夏梨ちゃんは
何処かその女の人を訝るような目で見ていた。
それが少し気になったけれど、
一声かける前にその綺麗な人が口を開いた。

「初めまして。朽木ルキアといいます」

凛とする声はまるで小鳥のさえずりのように
うっとりしてしまいそう。

惚れぼれとしている間、ルキアちゃんは身の上話を始めた。

「実は・・・。食べるものも住む所もなく・・・。
 お金も無くて・・・」

そこで白い綺麗なハンカチを取り出し、
透き通った涙をそっと拭き取るルキアちゃん。

そんなルキアちゃんが可哀想でいつの間に
私も泣きだしそうになっていた。

「うぅ・・・。可哀想だよお父さん!
うちに住んでもらおうよ!」

お父さんの手を取るとお父さんも涙が滲んだ目で、

「父さんもそう思っていた所だ!
 母さん、我が黒崎家に三人目の娘が出来だぞ 〜っ!!」

そう言ってお母さんの遺影に縋り付いた。
夏梨ちゃんはそんなお父さんの頭を蹴り飛ばす。

「あぁ、夏梨ちゃん・・・・。」

私の声は届かず、いつものように夏梨ちゃんが
お父さんと喧嘩をし始める。

お兄ちゃんはルキアちゃんの事を
呆れたような目で見ていたけど、私には嬉しそうにも見えた。

「あ、そうそうルキアちゃん!
 今ご飯なの!一緒に食べよう〜♪」

そう言うとルキアちゃんは綺麗な顔を綻ばせて

「ありがとう、遊子」

と言った。

その時感じた。
前にも、ルキアちゃんと会った事あるような気がする・・・・?
なんでだろ。
その存在が、前から知っていたような気がしたんだ・・・。
なんでだろう?
それは分からないけど、何故かそう思えた・・・。



ルキアちゃんがうちに来て1週間。
ルキアちゃんはすぐに溶け込み、ずっと前から住んでいたような感じがしていた。
ただ、夏梨ちゃんはルキアちゃんに冷たい。
どうしてか分からないけど、何故か何処か突き放したような言い方をする。
私が聞いても、「遊子には関係ないよ」と言って教えてくれない。
ただ、そんな夏梨ちゃんにでもルキアちゃんは
笑顔で接する。
私にも笑顔で接してくれる。
近くにいると、心が和らいで甘えたくなる。
だからなのか、
お兄ちゃんはルキアちゃんといると普段よりも
ずっと優しい顔。
眉間の皺もすっと溶けるように消えていき、
子供のようになる。
だから、家に居ても今までのお兄ちゃんを疑うほど
ルキアちゃんに甘えてる。
そんなお兄ちゃんを見て、クスリと笑いたくなるけど、
子供みたくなるのは私もだから、人の事は言えないや。
理想のお母さん、という感じ。
お母さんは小さい頃に亡くなっちゃった。
そのぽっかり空いた、愛を欲しがる心を
ルキアちゃんはいとも簡単に埋めてしまう。
ルキアちゃんはすごい・・・・。

ご飯が炊けた知らせのアラームが鳴り、我に返る。
ご夕飯、作らなきゃ。

「遊子。」

振り返ると、ルキアちゃんが立っていた。
相変わらず、綺麗。

「あ、ルキアちゃん。今からご夕飯作るから
 待っててね。」

そう言って、フライパンに手を伸ばした時。

「いいぞ、遊子。私が作る。」

ルキアちゃんはそう言うと台所に入った。

「え、いいよルキアちゃん!!」

「いや、家に置かせて頂いてるのだ。
 少し位は恩を返さなければな。」

「え、いいのにそんな事!」

ルキアちゃんは優しく笑うと

「遊子は優しいな。
 だが、大丈夫だ。ありがとう。」

その笑顔に、心がじんわりする。
こんな人、今まで会った事ない。

「じゃあ・・・」

ルキアちゃんは私を優しく見つめた。

「私も一緒に作ってもいい?」

ルキアちゃんの傍にいたくて。

「あぁ、勿論だ。
 遊子がいると安心だ。」

私は笑顔になり、「作ろ作ろ♪」と言った。

ルキアちゃんが台所に立つと絵になる。
包丁さばきもとても上手くて。
お肉を切るのも、卵を割るのもとても器用。

「ルキアちゃん上手いね〜!」

「遊子の方が上手いぞ。
 私もまだまだ頑張らなければな。」

ルキアちゃんと並んで台所に立っているのは
とても楽しい。
こんなに台所で楽しくなんて、初めて。

「ねぇルキアちゃん?」

「ん?」

フライパンに油を引きながらルキアちゃんが答える。
私はケチャップを混ぜながら言った。

「ルキアちゃんって、お兄ちゃんの事どう思ってるの?」

ルキアちゃんは、フライパンを回して油を全体に引きながら言った。

「そうだな・・・・。
 一護は、弟みたいなもんだが、たまに
 力強い所もあるからな・・・。一言で言えな
 いな。」

そう言ってフフと笑った。
確かにお兄ちゃんはルキアちゃんにべったり
甘えていて、そういう感情も湧くよね。
でも、お兄ちゃんはルキアちゃんが思ってる以上に
ルキアちゃんの事大切に思ってるよ。
だって、ルキアちゃんといるときお兄ちゃんは
甘えてるけど、ちゃんと「好きな女の子」って目で見てるもん。

「そっか。」

そこでフライパンに一気に卵を流しいれると
言った。

「ルキアちゃん、これから
 お姉ちゃんって呼んでいい?」

菜箸を動かす手を止め、ルキアちゃんは驚いたように私を見る。
や・・やっぱ驚くよね。
でも、ルキアちゃんはお姉ちゃんだよ。
ルキアちゃんは、嬉しそうに微笑むと
「ありがとう。」
と言った。
そんなルキアちゃんが可愛くて、思わず抱きついた。
ルキアちゃんも嬉しそうに私の頭を撫でてくれた。

後ろに恐い顔してお兄ちゃんが影から見ていた事は見てないふりをした。


「ご飯だよー。お父さんー?夏梨ちゃんー」

そそくさとお皿を机に並べる。
そうしている内に皆集まってきた。

「今日はお姉ちゃんと一緒に作ったんだよ〜♪」

「おぉ!美味そうだよルキアちゃあああん!」

お父さんが嬉しそうにはしゃぐ。
夏梨ちゃんは驚いたようにお姉ちゃんを見て、椅子に座った。
あたしがルキアちゃんって呼ばずに
お姉ちゃんって呼ぶ事かな?
さっきから不機嫌だったお兄ちゃんも
お姉ちゃんが隣に座り、少しずつ機嫌が直っていく。
本当、単純。
クスと笑うと私は最後のお皿をお兄ちゃんの前に置いた。
お兄ちゃんの顔が一変する。
みるみる険しくなっていき、何かを言おうと
口を開いた時に
丁度夏梨ちゃんが呟いた。

「・・・・何この絵」

皆のオムライスの上には、お姉ちゃんが
ケチャップで描いた「チャッピー」の絵。
なんだかよく分からないけど
うさぎみたいな絵。
お姉ちゃんが照れたように
「いや・・その・・・」
と呟き、照れ笑いする。
私は知ってるよ。
皆もっと仲良くなれるようにってお姉ちゃんが描いた事を。

でも、お兄ちゃんのは私が描いちゃった。
宣戦布告だよ、お兄ちゃん?

「いただきまーす♪」

そう言ってふわふわの卵をスプーンで切る。
お兄ちゃんの目線がすごく怖いのは知らない。








お兄ちゃんのオムライスにかかった赤い文字。






「お兄ちゃんだけにお姉ちゃんは渡さないよ」




だって、もうルキアちゃんはお姉ちゃんだもん。
下の子が独占してもいいでしょ?
お兄ちゃんだけに渡すのは勿体ないもんね。
えへへ♪
 

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