二次創作

□家族
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長い検査が終わりメディカルから解放されて
忍び込んだ部屋のソファにぐったりと倒れ込むようにして凭れた。

ふと、次に目覚めたら身体には、
ベッドの上にあったはずのタオルケットがかけられ、
目の前のテーブルの上には
食堂から持ってこられたのであろうプリンが一つ置かれている。
もちろん、スプーンも。

カタカタと、音を放つデスクを見ると、
部屋の主が黙って壁に向かって作業している。

「ありがとう総士・・・」

眠ってはいても、
テーブルにさりげなく置いてあるそれを持って来るに到る、
色素の薄い髪の『兄』の様子も全て判っている。
自室に戻ってきた時に先客が居たことに戸惑う様子も、
疲れて寝ている妹を労う為にと食堂でプリン一つ買う様子も、
目は閉じていながらも全て手に取るように見ていたが、
そんなことは敢えて口にはしない。

せめて人間らしく・・・
起き抜けの掠れた声で礼を言えば総士は、
忙しなく動かしていた両手を止め、

「気分は・・・」
と、躊躇いがちに聞いてくる。

「大丈夫だよ、ちょっと疲れただけ・・・」

生体コンピュータだろうが、
島のコアであろうが、
コアギュラ型のフェストゥムであろうが

その素となるのは紛れも無く『皆城乙姫』という人間で
だから人間と同じように・・・
また、それ以上にこの世界に生まれたばかりの彼女は
疲れやすく、脆く、危うい。

そんな乙姫の事情を察し、不器用ながらに案じてくれるのは、
この世に生まれ出でるよりもずっと以前から見守って来てくれていた
ただ一人の肉親、
この世にたった一人の「家族」

決して「普通」とは言えない関係だけれども
だからこそ、より強く互いのことを想い、認め合えるのだろうか。
互いの全てを知り尽くし、同じ名を持つものとして存在する。

それはまるで、「家族」と言うよりも
「共犯者」という言葉も相応しいかもしれない。

『共犯者』
なんて、魅力的な言葉なのだろう。
その言葉が浮かんだ瞬間、

「ねぇ、総士」

今なら、総士になら
言えるかもしれないという気持ちを乙姫に生じさせた。

「厭だったらイヤって、言ってね」

「何の話だ?」

いつもよりも、若干優しい『おにいちゃん』
 『お兄ちゃんらしく、無理だって言って良いんだよ』
この兄が『無理』だとか、『駄目だ』とか私には決して言わない。
罪の意識か、他にも理由があるのか・・・
だから・・・だから甘えてしまう。

「あのね・・・これから言う、私のワガママの話だよ」

言ってはいけない事。

「お前の望みなら、叶えよう」


それは禁句、甘えてしまったら、縋ってしまったら
私は貴方も咎人にしてしまう。
それでも逆らえないこの甘い誘惑。
私の願望。

家族を、唯一この自分を理解してくれる人間を
試そうとしている
騙そうとしている
甘えようとしている


「…ねえ、あのね総士」

そうして 何かを確かめようとしている。
『兄』は、私の言うことを聞き逃すまいと静かに私を見つめる。

言え、
言ってしまえ

きっとこの望みは叶う。
きっとこの人間ならば『我々』の望みを叶えてくれる。

「私が此処から居なくなる前に、私を、大人にして」

それは、
『私』自身が望んだことなのか、
『我々』が望んだことなのか

…多分両方なのだと思う。

「何を、」とその後の言葉はどちらも発することは無かった。

この人間は、私の望みを何でも叶えてくれる。

折角のプリンは、室温で水滴だらけとなり、もう口には出来ない。


あるものは、ただ背徳感。



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