二次創作

□HAPPY UNBIRTHDAY
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朝。
いつものようにアルヴィスへと赴く総士を一騎は送り出す。

 「いってらっしゃい」
 
 「ああ、行って来る」

玄関先で毎朝のお決まりの挨拶を済ませる。
靴を履き終わった総士が扉に手を掛ける。
しかし今日は

「あ、あのな!総士っ」

出て行く直前の総士を一騎が呼び止めた。
何か用事でも頼むのかと思い、総士は戸に掛けた手を下ろし振り返る。
するとどこか不自然な様子で一騎が見つめてきた。
何かを言おうか言うまいかと戸惑っているような様子が伺えた。
どうやら、買い物や伝言を頼みたいのでは無さそうだと踏んだ総士は一騎に向かい合い、
両頬に手を添え話の続きを促す。

「どうした、一騎?」

するとやがて一騎の唇が躊躇いがちに開く。

「あのな、昨日・・・聞いたんだけどな」

「何をだ?」

総士にはまだ話の意図が掴めない。

「その・・・今日は、俺とお前の誕生日の真ん中の日なんだって」

「は・・・?」

 真ん中バースデイ。
いつだったか、クラスメイトたちがそんな話題で盛り上がっているのを遠巻きで眺めていたのが思い出された。
誕生日が一日違いの羽佐間と一騎にはそれが無いと、
珍しく登校していた羽佐間が酷くしょげて遠見に慰められていたのが印象に残っている。

一騎も、そんなことを気にするようなタチだったのかと新しい発見をした気がした。

「…総士…?」

ぐるぐると脳内で考えを巡らせていると、一騎に不思議そうに名前を呼ばれ、はっと我に返った。
変な事言って怒ったか?と言わんばかりに潤ませた瞳をして一騎が見上げてくる。

「い、いや。何でもない。そうか・・・そんな日があるのか」

決して怒ってなんかいない、ただ、いきなりお前がそんなことを言うから驚いたんだ、
と態度で示せるように慎重に言葉と表情を繕う。

すると、その態度にやっと安心したらしい一騎が、
総士がしているのと同じように総士の両頬に手を添え、背伸びして額を寄せた。

「えっと、・・・おめでとう、総士」

恥じらいを含んだ、囁く声。
言うまでも無く、総士は一騎の期待に応える。

「…おめでとう、一騎」


額を寄せ合って言葉と交わすと
やがてどちらからとも無く
顎の角度を変えて、今度は唇を重ねた。

甘い互いのそれを小鳥のように啄ばむ。
ちゅ、ちゅ…と囀る水音が直接脳に振動する。

しばらくそうしたまま戯れてから、
小休止といわんばかりに、唇を離して
再び元のように見つめあう体勢になると
クスリ…と一騎の口から吐息が漏れる。

「何だ?」
訝しげに総士が問えば、

「だって、なんだか二人の誕生日みたいだ」
と、可笑しそうに微笑む。

「そうだな」

二人で顔を寄せ合って、笑った。
笑いあってから
もう一度、一騎の唇を味わうべく顔を寄せようと背に手を回し抱きしめてやると、
身を委ね掛けた一騎があっと息を呑んだ。

「駄目だ!遅刻するからっ」

そういえば、もう家を出なくてはならない時間をとうに過ぎている。
だが、一度盛り上がってしまった気分はそう簡単には抑えらることはできない。

「少しくらい…」

尚も食い下がろうとする総士の腕から一騎は駄目だともがいて無理やり脱出を図る。
抵抗されたと思い、しゅん、となってしまった総士。
そんな総士に対し、罪悪感からか
お前が遅刻するんだよ!とは決して言わずになんとか優しい言葉を模索する一騎。

「あーーー…続きは帰ってから、な?夕飯好きなもの作って待ってるから・・・」

案の定、総士はぱっと、表情を変えた。
一騎がそんなことをいう機会は滅多に無いからだ。

「ああ、わかった。早く帰るようにする」

まずいことを言ったかなと、少々表情が固まった一騎。
極上の笑顔でそんな一騎を見つめる総士。
そうして早く仕事に行けと、送り出された五月八日。
帰るまで、頬が緩むのを耐えるのが辛いななどと、総士は能天気に考えながら家を出た。



いつもよりも、少しだけ特別な日。
二人の誕生日。



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