二次創作

□プレゼント
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「そーしっ」

例によって突然アルヴィス内の総士の個室へと訪れた乙姫。
鈴を転がしたような声で作業に没頭する兄の名を呼ぶ。

「乙姫」

やっと振り返れば、見慣れた妹。
だがその手には見慣れないものがある。

ちいさな花束を、水を入れた食堂のアクリルのコップに差されたものが、小さな掌に握られているのだ。

意味を問うべく視線を送れば嬉しそうに答える。

「風で落ちたのを芹ちゃんたちと拾ってきたの」

まだ殆ど蕾だから可哀想なんだって、そう笑顔で言いながらコップを総士が端末を広げている机の上に置く。
さも当たり前のように。

「お水、毎日変えてあげてね」

「何故僕が?」

総士は眉を顰める。
てっきり花を見せに来ただけだと思っていたのだ。

「だって、ここに置こうって決めてたの」

有無を言わさぬような妹の我侭に、反抗できない兄は溜息をつくしかない。

「…任務でここに帰れない日もあるんだ」

言外に、自分には無理だと告げようとするが

「だからだよ」

そう、即答される。

「帰れない日は一騎にお水換えるの頼んでね」

「ば、馬鹿なことを」
「なーんてね、ふふっ」

総士の予想通りの反応に乙姫はこの上なく楽しそうに笑った。

「総士が何も残そうとしないから。だから私は花を飾るの」




――――いけない?





答えはなく。

そして、主の居なくなった部屋。
命を学び枯れ落ちた手向けの花。
今もそのまま。




一騎はここに新しい花を飾らないと決めている。
花は翔子に捧げるものだから。

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