夢想話
□癒しと安らぎ
2ページ/13ページ
「フ〜、フ〜……う〜ん…もう少しですかね」
クツクツと音をたてる銀色の鍋。
その中に塩を一振りし、ゆっくりかき混ぜて小皿に取ると
「…うん、美味しくできました♪」
満足そうに微笑む貂蝉。
「何時頃帰って来るんでしょ…ご飯は先に食べてた方が安心しますよねきっと」
時計を見つめ呟くと、丁度テーブルの上から“わふわふ”と又聞こえる犬の鳴き声。
急いで携帯を開けば
〔腹減った。もう帰りたい〕
と一言だけのメールが入っていた。
(接待ってご飯食べないんでしたっけ?奉先様甘すぎる物以外好き嫌い無い筈ですし…)
〔ご飯食べないで接待してるんですか?
相手の方もお腹空いてたらお仕事の話できないんじゃありません?〕
〔相手は食ってる。
だが俺は食う気せん。貂蝉の作った飯が食いたい〕
「…わがままですねぇ//」
そう言いながらも思わず口元が緩む貂蝉。
「でも一人だけ食べないのは印象悪いんじゃ…」
ふと気付き、呂布の置かれた状況を色々考えてから
〔相手一人で食べさせちゃ失礼ですよ。少しは食べないと…今日は晩ご飯作ってあげませんよ?〕
貂蝉は少しだけ意地悪なメールを送った。
すると少しして
〔貂蝉の飯食いたいぞιちゃんと食うから飯頼む(:_;)〕
絵文字を使い気持ちを伝えて来る呂布。
その可愛らしさにキュゥッと胸が締め付けられるのを感じながら
〔偉いですよ奉先様^^
美味しいご飯作って待ってますねvV〕
動くハートの絵文字を添えて返信した。
「おぉ、遅かったな呂布社長」
「すまない、少し大事な相手と話していてな…」
「ほぉ…この曹孟徳より大事な相手が居ると?」
「…少し前に胃を痛めてな、医者にこういう飯を食って良いか聞いていた。一人で食うのもつまらんだろ」
「ふむ…その年でお主も難儀よな。好きに食えんとは」
「…まぁな」
軽く会話を交わし、用意されていた懐石料理を口に運ぶ呂布。
(このくらいの嘘は良いよな。早く終えて貂蝉と…)
愛しい妻を想い、その顔は優しげに緩んでいた。
―――――――――――
「奉先様…ちゃんとご飯食べましたかね」
ちゃぷりと湯に肩まで浸かり、ふぅと息をはく貂蝉。
「…静かですね……ほんとに…」
“貂蝉♪俺も一緒に入って良いか?”
「…早く帰って来てほしいです」
いつも乱入してくる筈の声を思い出し、ぱちゃぱちゃと一人お湯を遊ばせる。
すると
“わふわふわふ”
脱衣所から聞こえる犬の声。
慌てて湯船から上がり携帯を開けば
〔もう耐えれん!!帰る!!!〕
又簡単な一言だけが書かれていて、貂蝉は慌てて呂布に電話をかけた。
『貂蝉♪今から帰るからも少し起きててくれるか?』
「それは良いですけど、いきなり帰っちゃ相手の方が怒りますよι
気に入らない事が有っても、少しは我慢しないと…」
『十分我慢した。あの匂いは耐えれん、帰る!!』
「匂い、ですか??」
『あれはきつくて耐えれんι俺の代わりに張遼置いてくから問題ないし……もう帰って良いだろ?』
甘く囁くような口調に、ほんのり頬を赤くする貂蝉。
『……まだ駄目か?ι』
更に寂しそうな声で言われ
「…気をつけて帰って来て下さいね。ちゃんと起きて待ってますから」
『おう!すぐ帰るぞ』
苦笑しながら、呂布の嬉しそうな声を最後に通話を切った。