夢想話
□張遼家の休日
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「忘れ物は無いですか?」
「ガスの元栓は閉めたし、お水も出てない、戸締まりも大丈夫……お財布もちゃんとあります」
「それでは行きましょうか」
にっこり笑い、そっと貂蝉の手を握り歩き出す張遼。
いつもより少しだけ積極的な夫に、貂蝉は嬉しそうに頬を染めて着いて行った。
最初に訪れたのは映画館。そこでやっていた仔狐が主役の冒険物を見る事にした。
元々動物が大好きな貂蝉。主役の小さな狐に
(きゃ〜!ちっちゃくて可愛い〜…あの子欲しいです♪)
声を抑え目をキラキラさせながら見入っていた。
その様子にクスリと笑い
(子供みたいで可愛いですな…)
張遼も違う意味で楽しんでいた。
しばらくして映画が終わり、外に出て来た二人。
貂蝉の胸には狐のぬいぐるみが抱かれていて、とても嬉しそうにニコニコしている。
「楽しかったですね。映画」
「はい♪あの狐さん、ちょっとだけ文遠様に似てましたね」
「そうですか?」
「真面目でちょっと泣き虫さんなところとか…」
「…そう、ですか…」
それを聴き、張遼の視線は自然と下を向く。
すると不意に、何か柔らかい物が頬に添えられ
視線を上げれば、ぬいぐるみの手を使い自分の頬に触れている貂蝉の姿。
「優しくてカッコ良いところも似てますよ」
そう言いにっこりと笑う無邪気な妻の素直な言葉に、張遼の顔が熱を持つ。
思わず抱きしめたい衝動にかられるが、真面目な性格が『今はダメだ!』と激しく己を止めた。
「…文遠様?」
いきなり固まってしまった張遼の頬をふにふにとつつく貂蝉に
「…貴女はとても可愛らしいです」
優しく笑い、その華奢な手をそっと握って口元に寄せた。
「っ!!ちょっ…張遼様///」
「…呼び方が戻っておりますぞ?貂蝉殿…」
「…張遼様だって戻ってます//」
「せっかくのデートですからね。恋人気分に戻るのも良いかと思いまして」
「えっ…」
驚き頬を染める貂蝉にクスッと笑い
「次はどこに行きましょうか?」
張遼は楽しげに歩き出した。
「…ここ憶えてますか?」
「もちろん。懐かしいですね…」
次に2人がやって来たのは少々古ぼけた公園。
小さな子供を連れた母親が数組、遊ぶ子供達を見ながら談笑している。
「ここは変わりませんな…」
「あのブランコも滑り台も昔のまま……
あ。でも砂場にあったパンダさんが無くなってます」
「そう言えばありましたな……
帰る時間になると貂蝉殿がパンダと離れたくないと泣いて……呂布殿が引っこ抜いて帰ろうとしてましたよね」
「憶えてたんですか…//」
「今思い出しました。…思えばあれが、呂布殿が更に己を鍛えだしたきっかけだったんでしょうな」
「…今だったら、お兄様本当に抜いちゃいそうですよね
無くなってて良かった…」
呟き、貂蝉はクスリと笑う。
(確かに、今ならあらゆる手段を使って持って行きそうだ…)
ツルハシで地面を掘り起こして根本に強烈な蹴りを放ち、パンダの置物を軽々持ち上げる呂布の姿をリアルに想像して、張遼は苦笑を溢す。
同時に、脳裏をある記憶が掠め…
「そうだ……
貂蝉殿、少しここで待っててくれますか?」
「えっ?」
「すぐ戻りますから」
笑顔で貂蝉に告げ、張遼は1人駆け出した。
「…今度は何を思い出したんでしょうかね」
微笑み張遼の背を見送ると、貂蝉は駆け回る子供達を見つめる。
「…本当に大きくなりましたね。私達」
暖かい気持ちを胸に抱き、貂蝉はベンチに腰掛けて張遼を待った。