宝物小説
□献帝 meets 呂布軍
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会ったらまず先にお礼を言わなくちゃと構えていたら、部屋の戸を力いっぱいゴンゴンとノックする音がした。
「は、入ってます!」
献帝が慌てて姿勢を正して答えると、戸が開き「失礼しやす」とガタイのいい兄貴がお盆にお茶を乗せて入ってきた。
後で聞いたら、この人が高順という人物だった。
「粗茶ですが、遠慮せずガンガンいってくだせぇ」
「お、おう」
高順は爽やかな笑顔でドスンと湯飲みを置くと、ぺこりとかわいく頭を下げて部屋を出ていった。
湯飲みはかなり大きくて、魚へんの漢字がいっぱい書かれていた。
献帝が粗茶をちびちび飲みながらしばらく待っていると、再び戸をノックする音が聞こえた。
入ってきたのは陳宮だったが、なぜか泣きそうな顔になっていた。
「ど、どうしたのじゃ、陳念?」
「陳宮です、陛下」
献帝は心配して駆け寄ったが、ツッコミができるだけの余裕があることにほっとした。
「申し訳ございません、陛下。呂布殿ですが、貂蝉殿が帰ってこないと心配になったらしく迎えに出かけてしまいまして……」
「そ、そうか。っていうか、貂蝉ちゃんはそんなに心配するくらい長時間戻ってないの?」
呂布の不在云々よりも貂蝉の安否が気になったが、貂蝉が出かけてからまだ半刻も経っていないと聞いて安心した。
それと同時に、呂布の見た目に似合わない過保護っぷりに正直ちょっぴり引いた献帝だった。
陳宮は、このまま待つのも退屈でしょうからと城の中を隈無く案内してくれた。
実はこんな所にこんな仕掛けがあるのです、と機密事項も楽しそうに見せてくれるもんだから、逆に献帝の方が気を使って精神的に疲れてしまった。
「こちらが下ヒ城自慢の総天然檜風呂でございます」
そこにはそれぞれ毛筆で「男」「女」と書かれた粋なのれんが掛かっていた。
「サウナに露天風呂もございます」
「凄っ!朕なんか曹操が作ったドラム缶風呂だよ?」
献帝はこのまま下ヒに居座りたいと思った。
ちょっと中を覗いてみようとしたら「男」と書かれたのれんが開き、いかにも風呂上がりといった風情の男と目が合った。
「むむ、何奴!?」
男は初対面の献帝を怪しい人物だと勘違いしたらしく、手に持っていた洗い桶と手ぬぐいを格好よく構えた。
献帝はその迫力に怯えて素早く陳宮の後ろに隠れた。
「お待ちください、張遼殿!こちらのお方は皇帝陛下にございます」
「こ、皇帝陛下ですと?」
陳宮が慌てて張遼の誤解を解いた。
それを聞いた張遼は献帝に向かって跪いて謝罪した。
「皇帝陛下だとは知らずに無礼な振る舞い、大変申し訳ございません」
「あ、いえ、皇帝らしくなくてすみません」
あまりにも丁寧に謝る張遼に、献帝はかえって恐縮してしまった。
「陛下に向かって武器を構えてしまうとは、この張文遠なんたる不覚……お詫びにぜひ牛乳を奢らせてくださいませんか?」
張遼はお尻のポケットから小銭入れを出すと、風呂の入り口脇にある自販機の前に立った。
「えっと、その、朕は牛乳よりいちご牛乳がいい」
「私はコーヒー牛乳で」
なぜか陳宮も便乗して張遼に奢ってもらった。