創作無双話

□甘味ででぇと
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寒さ厳しい早朝の鍛錬場。
そこには今日も愛刀を振るう張遼の姿と、それを見つめる貂蝉の姿があった。



初めは見つめられる事に緊張し、肩に余計な力が入っていた張遼。
今では視線にも慣れ、以前にも増して舞うが如く流れる太刀筋に、貂蝉は尊敬の眼差しを込めて見つめるようになっていた。



「ふぅ……今日はこのくらいにしておきます」

「まるで舞うようにとても綺麗な動きでした。…張遼様は毎日華麗になっていきますね」

「まだまだ貴女には敵いませんよ。昨日の戦での舞…本当に美しかったです」


そう言って貂蝉の前に片膝をつき、優しく笑う張遼。


「そんな事…私はまだまだです//」


見つめる瞳が気恥ずかしくて、貂蝉は頬を染めてうつ向く。




(可愛らしいお方だ…)

張遼は小さく笑い、そっと赤い頬に手を添えると

ピクッと震えて上げたその顔は、更に紅く染まっていて…



「そのようなお顔をされては困ります…」


緩む口元を抑えずに、優しく貂蝉を抱きしめた。



「ちょっ……ちょうりょ…様////」

「このように冷えていては呂布殿が心配されますよ?……少しだけ、暖めさせて下され」



そう言って落ち着かせるように背中を撫でると、貂蝉の身体が冷えきっていたのに気付く。



「…あまり無理をなさらぬように……私に付き合わなくても良いですから…」


優しい声音で囁くように言えば


「無理してないです…」


小さな返事が返り、腹の辺りの服をキュッと控え目に握られる。





(…本当にこの方は……)


胸の奥から沸く暖かい感情に押され、張遼はそっと額に唇を寄せて、貂蝉の身体を解放した。



「…呂布殿を起こしてあげて下さい……冷えぬようにお気をつけて」

さらりと髪を撫でると、貂蝉は恥ずかしそうに微笑み


「有り難うございました」


頭を下げ、鍛錬場を後にする。




「こちらこそ…有り難うございました…」



見送る張遼の顔は優しく、とても幸せそうだった。


















「遅いですぞ呂布殿」

「誰も待ってろとは言っとらん」

「城主ともあろうお方が毎日毎日遅れるとはどういう事ですか」

「このクソ寒い中起きて来てやっただけ有難いと思え」

「何ですと!?」


「お二人共少し落ち着いて下され。陳宮殿、言い争っていては更に遅れますぞ。
呂布殿も…せっかく起こしてくれた貂蝉殿に失礼ですよ?」


「む……そうだな」

「分かりました。では本日の議題ですが…」


張遼の一声で再開される軍議。
その見事なあしらい方に、他の諸将は只々関心していた。




その後軍議は滞り無く進み、呂布以外の者には特に仕事も無いらしく、あっさり解散となった。



「なぜ俺だけ仕事せねばならんのだ…」


ぶつぶつと文句を言いながら部屋を出る呂布。その背に


「…あの、呂布殿」


遠慮がちに声をかけ、張遼が止めた。



「なんだ?」

「その…後で貂蝉殿と城下に出掛けたいのですが、宜しいでしょうか?」

「……何故貂蝉と一緒に行くんだ。行くなら一人で行け」


あからさまに不機嫌になる呂布の顔。
張遼は苦笑しつつ


「先日とても美味しい甘味屋を見つけたので、貂蝉殿にも味わっていただきたいと…」


駄目元で理由を話すと、呂布の顔が呆れたようになり


「相変わらずだなお前は……まぁ、そういう事なら連れてってやってくれ。今俺の部屋で寝てる」


あっさりと許し、部屋へ向かい歩きだす呂布。
その余りの寛大さに驚きながら、張遼も慌てて後を追っていった。




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