宝物小説
□卒業式
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『卒業式』
長かったようで短かった3年間。
もうこの場所で、些細な事で盛り上がったり、くだらない事を延々と話し込むこともない。
卒業式が終わり、誰もいなくなった教室に一人で入った貂蝉が、自分の席だった場所に座り3年間を振り返る。
入学式、学園祭、修学旅行、それに毎日の授業…思い出す日々の中には必ずあの人がいた。
『先生…』
貂蝉はぽつりと呟いてため息をついた。
初めて会った時から、ずっと好きだった。
想いを打ち明けられなかったのは、相手が教師だったから。
どうせ向こうは私を生徒としかみていない。
断られる確率の高さが、3年間、自分にブレーキをかけていた。
『最後なんだし、告白しちゃいなよ!』
貂蝉の想いを知っている友人たちは、卒業式当日にせっついてきた。
貂蝉も、卒業式という行事のテンションに乗ってしまえば告白できるような気がしていたが、結局何もできないまま今に至っていた。
フラれてしまった瞬間に、先生と過ごした楽しい思い出が全て壊れてしまう。
それが怖かった。
不意に携帯が鳴る。
友人からだった。
卒業式の後、みんなでカラオケに行こうと誘われていたのだが、なかなか来ない貂蝉を心配して電話をしてきたらしい。
『あ、ごめん。これからすぐに行くね!』
貂蝉は無理矢理明るい声を作って答えた。
いつまでもこうして座っていても、状況は何も変わらない。
貂蝉が立ち上がる。
この教室を出たら、先生へのこの想いも、思い出に変えてしまおう。
そう決意を固め、廊下に向かって歩き出す。
教室の扉に手をかけようとした瞬間、ガラッと扉が開いた。
驚いた貂蝉の前にいたのは、ずっと想いを寄せていたその人だった。
『せ、先生!?』
貂蝉は、息が出来ないくらい苦しくなる胸を押さえる。
こんなに至近距離で接したのは初めてだった。
『…貂蝉。』
聞き慣れた先生の声が自分の名前を呼ぶ。
その一言だけでも苦しくて切なくて、返事すらできない。
うつ向いて黙ったままの貂蝉に入ってきたのは、一生忘れられない言葉。
『お前のことが、ずっと好きだった。』
溢れる涙が止まらない。
先生が戸惑っている様子が雰囲気で分かった。
私もきちんと想いを伝えなくちゃ。
『私も、先生のこと、ずっと好きでした。』
今日は、3年間の学校生活と片想いの卒業式。
おしまい。
→→→あとがき