宝物小説

□おかたづけ
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『奉先様のお部屋って、どうしてこうすぐに散らかってしまうのでしょう。』

貂蝉は週に一回、呂布の部屋へ掃除をしに来る。
特に呂布に頼まれたという経緯があった訳ではなく、あまりの散らかり具合に呆れ果てた貂蝉が、自発的に思い立って掃除をしようと決めたのだった。

空になった酒瓶、食べかけの料理、脱ぎっぱなしの衣類…
貂蝉が一週間前に片付けに来たばかりなのに、すでに足の踏み場がないくらい、いろんな物で床が埋め尽くされている。
毎週掃除に来るたびにものすごい剣幕で散らかってるのだから、見慣れた光景ではあるのだが。

『たった一週間でここまで散らかせるなんて…
奉先様って、ある意味すごい才能の持ち主なのかもしれませんね。』

貂蝉は、苦笑混じりにため息をついた。

お気に入りのフリル付きエプロンを身に付け、長く伸びた髪を後ろにひとまとめにしながら、よし、頑張って綺麗に掃除しようと自分に気合いを入れた。



『あら、あの竹簡…?』

まずはどこから手をつけようかと部屋の中を見渡すと、机の上に無造作に投げ出された竹簡が目に入った。
それは、確か明日までに仕上げて陳宮に届けなければならない竹簡のはずだ、と貂蝉が気付いた。

『奉先様ってば、また忘れてるのか、わざとサボってるのか…』

貂蝉は、まだ一文字すらも書かれていないまっさらな竹簡を手に取って呟く。

『もう、本当に仕方のないお方なんだから。
これもまた私が代わりに書いて陳宮様に出しておきましょう。』

呂布の代筆を貂蝉がするのは、もういつものこととなっていた。
それをするたびに困り顔の陳宮が、貂蝉殿は呂布殿を甘やかし過ぎなんですよ、とブツブツと長い時間小言を言う。
また同じことを言われると分かっているのだが、呂布の事となると何かと世話を焼いてしまいたくなる自分の性格が、ついおかしく思えてクスクスと笑い出してしまった。

『私、これじゃまるで奉先様のお母様ね。』
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