日和

□雙世の王
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少し躊躇ってから、閻魔の赤い目が鬼男を再び見上げた


「…ねぇ、俺が、何を司るカミサマか、知ってる、かな」
「えぇ。死と、裁きと、正義と、平ど…」



………………。

「ねぇ、鬼男君」


死と裁きと正義と、『平等』

鬼男は顔色を失う

しゃがみこんで、閻魔の肩を強く掴む

「大丈夫だよ、鬼男君」
「いつから!?何のため!?」


微笑む
その褐色の首筋に白い腕が絡む


「だいすきだよ、君が。好きなの、鬼男君」

だからね、と優しく頬を撫でる。

「だからね、鬼男君、俺は君が欲しかった。でも」



君『だけ』と繋がる事は、許されなかった


「求められれば、仕方ないんだよ。君と繋げてしまった。それは、君だけの物にならない事が前提なんだよ」

鬼男と繋がるならば
「俺は、みんな、好き」
他の求める者たちとも

「それが、カミサマの秩序なんだよ」

「じゃあ何で、何で僕と」



「君を想ってしまった。他と平等に想えないくらいに。それに…君も…だから均衡を、どうにか保ちたかったんだよ」

でも、想いだけは、どうしようもなかった。
「我儘だけど君だけのモノにならないようにするには、どうすれば良いんだろうって……」
震える鬼男の肩を優しく抱く


「ねぇ、こんな事をしないと君を想う事も出来やしない俺を…」

許してくれないか
という一言を必死で飲み込んで


「嫌いになった?」


厄介でしょ。
Yes、とだけ答えれば、終わりだよ、鬼男君



急な圧迫感
閻魔を抱き締めて、鬼男は声をあげて、泣いた。


「大王、だいお…うっ」
「ごめんね、ごめんね」
「酷い事してごめんなさい…」
「ごめん、言えなかったの。ごめんなさい」
「痛い事してごめんなさい、怖い事して、ごめんなさい」
「いいの、鬼男君、俺は体力なくても頑丈だから、ねぇ、気にしないで、鬼男君」

君だけを、愛していると

「言えなくてごめん」

口には出せない想いが痛む身体を抱き寄せる腕から溢れんばかりで

自惚れではない。この鬼の子は

「嫌いに、ならないと、辛いよ」

「それでも、許されるなら、何でもいい、僕は、貴方のそばに、いたい、です」


雙世の王
雙(ふた)つに分かたれた

最高の幸せと
最高の苦しみの世界に
閉じ込められた王




「一緒にいてよ、鬼男君、いつまでも秘書として、俺の一番近くに」


伝われ、伝われと願いながら、誰かを抱き締めた腕で抱き締めた。



誰か、どうか許してください。


いつか、彼だけを









fin
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