日和
□【100hit】赤く彩る
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「じゃあ言うけどね…」
紅葉の色は炎の色。
紅葉の葉は登る竜の鱗。
「地上のぬくもりを全部吸い取って、遠い空に還すの」
紅葉は風に舞い上がる。
暫く空に映えてからくるくると旋回して落ちる。
寒い冬が来る。
凍て付くような冬が来る。
「それにね、紅葉の下には綺麗な鬼がいるんだよ」
落ちる赤に、芭蕉さんはどこか不安げな表情を浮かべている。
「鬼は人を惑わして連れて行っちゃうんだ」
「ねぇ、松尾、迷子になったらどうしよう。遠い所に、ねぇ、曽良君」
燃え滓が、足元でかさかさと音を立てる。
歩けば歩くほど。
瑞々しさを失った燃え滓。
僕はひとつ舌打ちをした。
あぁこの人の感性は、なんて。
絶対に口に出せないけれど、それがもどかしくて。
僕は、その手を握って歩き出した。
引き摺られるように芭蕉さんはよろけながらもついて来る。
「ねぇ曽良君、怖くない?」
冷えやすいその手は僕のそれよりだいぶ冷たい。
細い指、薄い掌。
「僕は迷子になりませんから」
だから、僕が、あなたを、なんて
口に出してなるものか。
芭蕉さんは不思議そうに僕を見上げる。
「曽良君?」
「怖くない、です」