日和

□スーパーノヴァ
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ねえ鬼男君、例えば、たとえばだよ

例えば俺が君と出会って一つの世界が終わったとしよう。


白黒でね、色がない
匂いもない
味もない
温度も感情もなぁんにもない

ただの平面の世界で俺は淡々と裁きを続けていたんだ。
まぁあまり覚えちゃいない。何せ印象的な事なんて何もなかったんだから。
だから君が生まれて、血の池から君を取り上げた時に、あれ、と俺は思った。

鬼の体温ってこんなに熱いんだ、とか
血の池ってこんなに赤いんだ、とか

まぁ知ってることには知ってたんだ。でもね、その時初めて気付いたみたいに。

それでも世界はモノクロで、俺はその場でやっぱり裁きを続けた。

それで、暫くして君が秘書に就任した。
俺は別に何とも思わなかったんだ。最初はね。
だってモノクロの世界にはたっくさんの部下がいたし秘書だって今まで何人もいたんだ。

それに、ほら、君は髪が白くて膚が黒いでしょ。
だから俺はモノクロの世界からでも君を正しく見ることができた。
否、正しく見ているつもりだったんだよ、鬼男君。
秘書がいるうちは遊ぼうって決めてるんだ、俺は。

…ちょ、何辞表出そうとしてんの!?やだやだ冗談!
ちゃんとやるべきことやってるじゃんよ!

…ああ、うん。ごめんなさい。


…でもね、鬼男君。
君は逃げた俺を追っかけて来た。
何処までも、何処までも。
息切らして、汗だくになって、怒鳴りながら。
俺はね、王様だから自由に飛べるの。
なのに君は何処までもしつこくしつこく追っかけて来て、それで跳んだ。

空中にいる俺を抱き締めてあらんかぎりの力で引摺り下ろして。
それでも俺が怪我しないように俺の下敷きになって。

誰がそこまでやった事があったんだろう。

心臓をドキドキ言わせながら、びっしょり汗をかきながら、調わない息のまま俺の下敷きの君は怒鳴った。

『仕事しろ!』


…俺の世界は爆発したんだ。その時、その瞬間。
君の体温、君の声
君の髪の銀色、君の膚の赤銅色、空の青、草の青、水の青、花の白、雲の白、陰の黒
君の肌は少し赤くなっていて、俺の青白い手が思わず君の肩をしっかり掴んでいて

あんなに極彩色に彩られた世界を俺は


大爆発して吹っ飛んだ俺のモノクロの世界

噴き出した鮮やかな君のいる世界。
きらきら降り注ぐ沢山の色。



眩暈がしたよ、正直。


世界が弾け飛ぶ音。

あの日の涙の理由、俺には未だにわからないけど。
欠伸したときみたいにさ、一粒だけ、俺の頬を伝って。

あぁ、眩しかったんだよね、きっと。産声を上げる赤ちゃんみたく。

ふふ、俺のおかーさんは鬼男君なのかな。
…気持ち悪い!?失礼な!!
光栄に思いなよ、鬼男君。


大きな大きな風船が弾ぜるみたいに。
いや、もっと何百万倍も強烈な。



ねえ、鬼男君。

あのね。


きっと、次にあんな気分になるのはまたこの世界が崩壊する時だと思うんだ。

この世界があっけなく、パンって弾け飛ぶ。
あれだけ強烈な始まり方をしたこの世界だよ。

あっけなく。
それでいて、ものすごい大爆発を伴って。


ねえ、鬼男君。

君がいる世界じゃないと、俺はダメなんだ。
ねえ、鬼男君。


世界が大爆発して君が飛び散ってしまったら、俺は君の破片を集めるよ。
君の破片くっつけておっきな世界をもう一回創るよ。
それが本物かどうかはわからないけど。

俺はそこに座って、その世界で、静かに待つの。

君との世界を繋ぎ合わせた世界の上で。


皆が俺を忘れてくれる日を。
俺の死を。
俺は、静かに崩れて溶けてなくなっていくのを。



ねえ、でもね、鬼男君!

今はまだ鮮やかなこの世界で、君と俺が一緒にいられるの。
君の体温、君の声、君の髪、君の肌、君の感情。

全部鮮やかに俺は感じていられるんだ。


ねえ、だから、鬼男君。

鬼男君。



【スーパーノヴァ】



(抱き締めて、俺の世界)








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