日和

□glutton
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被ってからしばらくして温まった毛布が僕の上を逃げる。
ズルズルと音を立てて外気に曝された僕はぶるりと震えた。
「太子…寒いです」
「ん〜」
掠れた声。自分だけ毛布を身体に巻き付けて僕から身を離した。
腰が怠いせいだろう、匍匐前進のように腕で寝台からおりる。やりすぎた、少し反省。
寝台の角で擦れて、敏感になった身体は甘い吐息を一つ吐いた。そしてそのまま太子は床に寝そべった。
「どこいくんですか?」
「む〜」
ずるずるずる。
僕は肌寒い。でも気怠くて暫く毛布を被ったまま床を這って移動する太子を見ていた。
机に置いてあった水を口に含み、一言「温い」。
毛布の毛虫はまだ移動を続ける事にしたようだ。

「太子」
「喉渇いた」

慣れた暗闇の中に明るすぎるオレンジの光が差した。
冷蔵庫を開けて、毛布を被った太子がその前にちょんと座る。
僕も喉が渇いていると自覚したのは、オレンジの光に太子の喉仏が落とす影が上下に動いたから。
勢いよく太子の口に注がれる冷水が口の端を伝い、何度も小刻みに動く白い喉元を流れ落ちていった。

「ひゃ、冷た!」
情けない声を上げて太子は水を床に置いた。
僕も飲もうとグチャグチャになった寝台から足を下ろす。
足の裏に濡れて粘つく感触。
ベタベタの身体で這い回るから、ああ床まで掃除しないと。
まぁ半分以上僕のせいだ。
また少しだけ甦った僕の身体の熱に免じて腹立たしさは飲み込んでやろう。
同じようにオレンジの光の前に僕も腰を下ろした。
「太子、僕も水」
「ほい」
渡された瓶は軽い。
「ほとんどないじゃないですか」
「私が飲んじゃったからな。あ、妹子酒あるぞ酒。摂政、本日のお勧め」
「僕のだよ…まったく図々しい」
そう言いつつ僕は酒瓶を手に取り歯で栓を抜く。
グラスを取りに行くのも面倒で僕は瓶から直接酒を飲む。普段の僕なら絶対やらない。
ほてった身体に直に注がれる冷酒はやけに冷たい。内も外も冷やされて僕の肉に籠る熱は板挟みになり萎んでいく。
しかし僅かな間を置いて酒は腹の中で、ほわ、と熱となって広がる。萎えては点る熱に眩暈がした。
「妹子、チキン肌」
太子が毛布を半分わけてくれた。
否、毛布は元々僕ので太子に貸したら奪われたものなのだけれど。

太子は手を伸ばして冷蔵庫の中のプリンを手に取る。
僕もつられたように未開封の薄切りハムを手に取った。
大の男二人が全裸で毛布一枚に包まって冷蔵庫を漁っているなんて、どんだけ滑稽なんだろう僕ら。
お互いに食器を取りに行くなんて選択肢はないようでプリンの蓋とハムの封を開けるビビビという音が重なった。
ハムを爪で一枚剥いでつまみ上げる。
「妹子、きったない」
「シーツで拭いたから大丈夫ですよ」
汚いと言われた指は確かに拭ったが心なしかカピカピしている気がする。構うものか。
僕はハムを口に落とした。
塩味のそれを咀嚼する。
ぐちゃりという音に隣りを見ると太子がプリンに指を突っ込んでいた。
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