日和

□それは冷たくあたたかく
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ひとだったものがごろごろところがっている。

それは確かに人の形をしていたけれど。
ぬかるみに足を取られる。
すべる、ぬめる、グチャグチャと臓腑のような音を立てる地面。
雨を含んだ泥は赤土とも違う赤黒さを帯びていた。


ころしてしまった


(もう終わらせてよ、いやだよ、わたし、こんなの)


どうして、犠牲の上に生きていかなきゃならないの。


「皇子、御無事ですか!?」

安心できるはずの声に答えることもできず、私はただ蹲って震えていた。
返り血が頬で固まって皮膚がひきつるその僅かな感覚だけがクリアだった。





厚い鎧を剥してもらうと蒸れた肌が外気を吸い込む。
あぁ呼吸してるんだ、そのとき私は確かにそう感じた。


金属はダメだ。
懸命に出入りする空気の流れを遮断する。
じゃぁあの鎧のまま横たわっていた人達も鎧を脱がせてあげれば呼吸するかもしれない、と。


そう思って私は自嘲した。


どうして。

答えを見つけられないまま、私は背を丸めて眠る。

心臓を抱いているような錯覚に安堵しながら。






+++++++++++++++++++



眠って終わらせたはずの感覚は日に日に強くなっていく。

怖い。

私は、死んだらどうなるんだろう。


命を奪ってしまった私を、誰が許してくれるだろう。


私は私でいられるの?


部屋にいたら押し潰されそうになる。
私はわざと薄暗くしていた部屋から這うように抜け出した。
空はお前の気持ちなんかに我関せずとでも言いたげに青く澄んでいた。

空気読みすぎた土砂降りだったら私の心なんてぱっきりぼっきりだったかも知れないが、これだけ晴れていたら逆に滅入る。
せっかく部屋から出たけれど日陰の涼しいトコを探して私は歩き始めた。


ほてほてと歩いていると木陰に水辺があった。さくさくと草を踏みしだきながら近寄る。
木陰は涼しい。虫も少ないし、私はそこに腰を下ろした。
一息。きらきら光る水面は意外と濁っている。それでも乱反射を繰り返す光を、私はぼんやりと見ていた。

それはグニャグニャと形を変えて、剣檄の光になった。
ぱしゃんと跳ねる水の音に鉄臭く滑るそれを重ねた。



あぁ、私は誰に許してもらえるだろう。




ぱしゃん、ぱしゃん…


ごぼ、がばっ、ばっしゃんばしゃん
ざばざばざば!!!

「!!??」

はじめはなんてことない水音が激しさを増す。
一気に現実に引き戻された私は何事かとそちらを向く。

「うわぁあぁぁああ!?」

誰か溺れてる!めっちゃ溺れてる!!
私はとにかく上着を脱ぐと慌てて池に飛び込んだ。





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