日和

□雙世の王
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※性的要素アリ注意












くたりと机に寄り掛かっていた閻魔が薄く目をあける。

「酷いや鬼男君」

乱れた髪に隠れて目は見えない。
口許は笑っている。

引き裂かれた着物は意味をなさず、足から床にかけて白と赤が点々と散っている。

「…酷いのは…どっちですか…」

罪悪感と怒りと、悲しみとを綯い交ぜにして鬼男は呟いた。

「うん、ごめんね、鬼男君」

ひくりと鬼男の肩が震える。


悲鳴を噛み殺して
ずっと、彼は繰り返した

『ごめんね』


「他の鬼とも、こんなこと…」
「うん、ごめん」

回復するまで暫くかかるのだろう。
動こうとして呻きと共に再び蹲る。

「ねぇ鬼男君、こっち来てよ。全部話すから、ねぇ」

その顔が、笑ったまま歪む

「ねぇ、ギュッてして」

腕を広げて求める。
「おにおくん」

おにおくん、おにおくん、だいすきだよ



「それ、何人に言いましたか?」
「辛辣だよ、鬼男君、目が怖いよ、ねぇ聞いて、お願い」

鬼男は近付く。閻魔は手を伸ばして、裾を握り締める。

それだけ


「今更、僕に何を聞けと言うのですか」

この腕が別の誰かの背を抱き
この脚が別の誰かの腰に絡み
この声が別の誰かの名を呼び「大好きだ」と繰り返し
この身体が別の誰かに


「見たんだよね。ごめんね」

「謝るなら、何で…!僕は大王にとっては大勢の中の一人でしかなかったんですよね。誰でも、良かったんですよね」

「ちが…」

「僕が、馬鹿でした」

「違うんだってば聞いて、お願い」

握った裾を強く引く。
見下ろしてくる猫のような金の目が、痛みに耐えるように細められている。
見上げてくる血だまりのように赤い目が、泣き出さんばかりに揺れている。





「一緒にいたい……」
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