日和

□【100hit】赤く彩る
1ページ/4ページ

「なんか怖いよ」
芭蕉さんが突拍子もなく呟いた。
「はぁ?」
「なんか怖くない?」
「何がです」
晩秋の風は冷たい。今日はやけに風が強い。

「もみじ」

何を、このジジィは言い出すのだろう。
山は紅葉で溢れかえっている。

楓に桜、花梨に蔦に錦木…もっと峠には銀杏。
栴檀の実、山葡萄も鮮やかに。

「美しいと思いこそすれ、何故」
「怖くないんだ?」
芭蕉さんは微笑んだ。
「松尾はすっごく怖いよ!」
巻き上げるように秋風。
落ち葉が巻き上げられ、乾いた音を立てる。
木から降り注ぐ紅葉と交じりあい、渦巻く。
芭蕉さんは舞い上がった葉に驚いたか強く目をつぶっていた。

何に、怯えているのですか

その髪に一枚、楓の葉が絡まった。

「芭蕉さん、頭に葉っぱついてますよ。アホみたいに」
「ムキィィ!アホって言うな!むしろダンディですべすべだよ!」
頬を膨らまして頭についた葉を摘む。
しかしそれをすぐに手放さず、指先でくるくると回しながら眺めている。

伏目がちな目元に思わず目をやってしまう。

「何か思い付きましたか?違うなら断罪します」
「せんといて!」
くりくりとよく動く円い目が今度は慌てて僕を見る。

目線が合う。

その瞬間芭蕉さんはうろうろと目線を泳がしてから、目を逸らして呟く。
「うぅ…曽良君が 短気で 嫌だ 芭蕉」
僕も普通に目が逸らす事ができたら、なんて思いながら僕はまっすぐ芭蕉さんを見据えている。

威圧的に映るだろうな、と思いながら、まぁそれでも全く構わない。
むしろ好都合だ。

「あのね、曽良君。私が怖いって思う理由聞いても変だって言わない?」
「言います」
「まだ聞いてもないのに!?」
「早くおっしゃい。グズグズしてると裁断しますよ」
「さささ裁断!!??」

何か言おうと言うまいと僕が楽しい事に変わりはない。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ