日和

□聖人は聖人を知る
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しなてる片岡山に
飯に飢て臥やせるその旅人
あはれ親無しに汝生りけめやさす竹の
君はや無き
飯に飢て臥やせるその旅人あはれ

−−−『日本書紀』


「ほぇブマあ゛ガっ!」
「今有り得ない声でしたね、太子」
前のめりに吹っ飛んだ太子。
「もーいや!やってられっか、このクソ寒いのにハイキングなんて!」
「片岡山までハイキングだって明け方家に押し入ってきたの太子じゃないですか」
妹子はかなり御立腹の様子。春が近くてもまだまだ12月。今で言う2月です。寒い盛り、妹子は愛用の耳当てをしてるものの鼻は真っ赤です。

「うぅぅ〜」

「ウザいです太子泣かないでください」
「失礼な!泣いてないよ!」
「うぅぅ〜」

「「うぅぅ?」」

太子は自分の尻の下敷きにしてる盛り土を見下ろして

「ひぃやぁぁあぁ!」

再び吹っ飛びました。
「あぁっ、すいません、本当にこのイカがすいません!」
「妙にやらかいと思ったらぁああぁ!」
太子の下敷きになっていた盛り土は半ば土に埋まった人間でした。

「イカって…イカって…」
何やら土に埋まったままボソボソと呟いています。どうやら行き倒れのようで、顔色は真っ青でした。
「とにかく引っ張るぞ、妹子!」
「は、はい!」
「パッヒョイ!パッヒョイ!」
「やめろ!力抜けるからやめろ!」
相当長時間埋まっていたのか、60%ほど土に埋まったその男の手は驚くほど冷たかったのです。

太子はいくら摂政とはいえ行き倒れでこれだけ冷えきった人を踏んづけて転んだうえ下敷きにしたことをちょっと申し訳なく思いました。
しかし、それ以上に犬が飼いたかったので、とりあえずおにぎりの事を考える事にしました。

妹子はいくら摂政とはいえ落馬で90%以上土に埋まる上司に憤りを覚え、そのカレー臭に更に苛つき、どうやったら行き倒れて60%も土に埋まれるのかというところにツッコむのをすっかり忘れてしまいました。
しかし、そばにあったアリの巣穴に木の枝をツッコむことは忘れませんでした。

つまりこの場にツッコみは不在だったのです。
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