日和

□賽の川原
2ページ/3ページ

「鬼男君」
「漸く来たんですか」

真っ白。いつもの“閻魔”の装束じゃない。
上半身がほとんど裸で、つくづく貧相イカだなぁなんて思う。
そのいつも赤い目が、黒い。

「今起きてるのをとっとと連れて行ってくださいよ」

そう言うと僕は足元にいる子どもを蹴りあげた。

子どもは呻き声をあげて転がると動かなくなる。
そのへんにはそんな子どもがごろごろしている。

「君は優しいね」


あなたは強い。


「おいで。よく頑張ったね。次の人生に連れてってあげるよ」
表情をなくした子どもたちは、それでも黙々と石を積む。

彼はそっとその子どもたちの孤独に触れる。


せいしんがまっしろになって、こどもたちはうまれかわる


ひとりの、まだ生まれ変われない子どもが目を覚ました。

しまったと思った時には既に子どもの手が彼の裾を握り締めていた。

「ぼくもつれてって」

子どもが、そう言って縋る。



「……べつにいいよ鬼男君」

その子どもを黙らせようとした僕に、制止の声。僕の喉がまるで獣のような唸り声をあげる。
「君はまだ連れてってあげられないよ、ごめんね」

もうたくさんだ。
こんなにも辛そうな顔が見たいわけじゃない。

地獄の見回りの後、亡者のつけた痣だらけで笑うあなた

仕方ないんだよ、と笑うあなたに僕は


「どうして連れてってくれないの、どうして」

繰り返す子どもを抱き締めて、許しを請うあなた

僕はその子どもを引き剥がして、あらんかぎりの力で投げ捨てた。
「あ…………」

「早く仕事に戻れ」

痛い、痛い、全身が痛い

「…辛い思いをさせてごめんね」
「鬼ですから辛くないですよ。むしろ気持ちいいくらいです」

子は親に似るんですよ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ