astray


□夜明け前のホストたち
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 「なんかさ、今日、部屋がやたら綺麗じゃね?」

竜胆が、綺麗好きの学の気を惹こうと、部屋の状態について気づいたことを言う。
 すると、学以外も辺りを見回して首を傾げる。
 いつもは散乱している雑誌置き場も、号数と出版社ごとに並べられ、竜胆や碧が食べ散らかしたお菓子のクズや包み紙の山も消え去り、テーブルの上に山積みされたゲーム機のたぐいも、あるべき場所に整頓されている。
そんな、常に小汚い部屋が綺麗になっていて、今の今まで気が付かないなんて、どれだけ興味の他に関心が行かない連中なのだろうか。

「たしかに。いつもは俺が、どんなに言っても片付けようともしないお前のロッカーの扉がきちんと閉まってる。」

嫌味を交えた学の言葉を竜胆は気にもせずに、綺麗になった、と嬉しそうにしている。
 
「そういえばリキが、ブツブツ文句言いながら大量のゴミ袋抱えて走ってたけど、あれはこういうことだったみたいだね。」

力也が仕事を終えるのは夜の10時で、その時間を過ぎたころに亮は力也の姿を目にしていたので、不思議に思っていたのだ。

「あ〜、リキは働き者だからなあ〜。明日誉めてやんないとな〜。」

ご褒美は飴玉がいいだろう、と、またもや力也が『子供あつかいしないでよ!』と怒りそうなことを考え付いてしまう幸太郎。もっとも、幸太郎にしてみれば嫌がらせなんかでは決して無いのだが。

 「あー、アイツってぜったいA型。Bのオレにはぜったい合わないね。」

ありがちな、性格で血液判断をした竜胆は、絶対A型、と言って勝手に頷く。

「でも、アイツは変な所が抜けてる。前、転んで俺の美しい顔に酒をぶっかけた。
落ち着きがないのはどうにもならないのか?」

心底迷惑、という様子で、学はため息を吐いた。

「リキは、今時の若者にしては人間ができていますよ。」

本を読んでいるときは、決して人に興味を抱かないノリタケが、珍しく口をはさむ。しかも、力也を誉めるような内容に、いっせいに視線がノリタケに集まる。
 読んでいた本をテーブルの上に置き、雑誌の並べられた棚の前にたたずむノリタケは、嬉しそうに雑誌の表紙を指でなぞる。

「古い雑誌をあえて目のつく場所に配置することで、思いもよらない懐かしさを感じさせ、宝探しのような気持ちを与える。読み手のことを充分に配慮した陳列。
加えて、乱雑に扱われて綻びの目立つものには、補修までも。
・・・彼には是非、私の書庫の管理を任せたいですね。」

なる程、と全員がすっかり納得。
こと本が関わってくると、ノリタケはどんな悪人をも尊敬してしまうことだろうから。
だからといって、力也が悪人、というわけでも無いのだが。
 けれど、そうとは解っていても、力也ばかりが誉められているのが面白くない、末っ子気質の竜胆は、少しだけ意地悪をすることにした。

「でもさあ。アイツ、漫画ばっか読んでんじゃん?」

「???
漫画もれっきとした書物ですよ?」

ノリタケは、きょとん、として考え込む。
ノリタケの本に対する愛はどこまでも深いのだ。
それが漫画でも、ファッション雑誌であっても、彼にしてみれば本。愛しむべき対象。

「それに彼は、漫画にもブックカバーをかけているではないですか。
本当に本を愛している証ですよ。」


(いやいや、アレは中身がバレたら相当ヤバイからだって!)

口には出さずに、それぞれが心の中で叫ぶ中、幸太郎だけが別の意見を口にする。

「ん〜?でもその漫画って、一部の女子とか、極少数の男子にしか読まれてないんじゃない?」

遠まわしな言い様に、上手いこと言うなあ、と感心する。
けれど、ノリタケは基本的に鈍いので、そんな言葉で理解などしたりはしない。

「それは、どういった内容なのですか?」

と、新たに興味を抱いてしまう。

 『知識を得ることは、脳に染み込む感覚がするので、新しいことを覚えるのはとても楽しいですよ。』 

常々、ノリタケが言っていること。
 今、新たな知識が目の前に現れたことが嬉しくてたまらない、という表情で、幸太郎に詰め寄る。
 こうなってしまうと、はぐらかすのは難しい。

「ん〜・・・あのさ、これってプライバシーとかいうのに関わってくるかと思うから、リキに今度、直接聞いてくれる?」

またもや上手く切り抜けた幸太郎からは確かに、後光の輝きがあった。
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