astray


□コスプレ遊戯(後)
2ページ/19ページ

 それが最近、変化を見せた。
 想いをとげるまでは参考書。けれど、両想いで恋人となった今、それは参考書ではなく、実用書に変わりつつある。
 実際に深美と何かした訳ではないけれど、どうしても意識して読んでしまう。
漫画のキャラが深美に見えてしまうと、自動的に自分もこうして深美に抱かれる日が来るのかもしれなくて、そんなとき、どんな顔をすればいいのか。経験豊富であろう深美の満足のいくことを自分はすることができるのか。
 そんな風に考えてしまったりする自分が、たまらなく恥ずかしい。
深美が一切、手をだしてこないので尚更。
 自分ばかりが先に進みたいと思っている、浅ましい人間のように思えてならない。



「ハァ・・・つか、まじでミヨシさんって何考えてんだろ?」

開く漫画すべてがつまらなく思えて、漫画を探すことは諦め、本棚に寄りかかってズルズルと座り込む。 考えるのは深美のこと。
 深美は、会えば『愛してる』と言ってくれる。 メールも、忙しいとき以外はマメにしてくるし、力也のメールには即座に返事をくれる。
 愛されていない、という訳ではないけれど、愛し合っているのならば多少の個人差はあっても、その先の、体も伴なってくるもの。
 恋愛初心者の力也でさえ望むことを、深美は望まないのだろうか。
 自分にそういった魅力が皆無だからなのか。
 グルグルとひとりで悩んでいると、そんなことばかり考える自分がとても浅ましく思えてしまう。 近頃の力也は、ずっとそうして自分を責めてばかりいる。
 気分転換のつもりで読んだ漫画が、逆に力也の心に重くのしかかる。
 どうしてこうも自分は不器用なのか、と苦笑した時、もう日常になりつつある無断の来訪者が、これまたいつも通り慌しくやってきた。


「あのオカマ・・・やりやがった!」

「はぁ?」

目にとびこんで来たのは、裾の長い、白くてフワフワとしたドレスを着て、手にはティアラを握り締めた、碧。
全速力で走ってきたのか、今にも倒れてしまいそうに膝に手をついて、肩で息をしている。
 その姿を、唖然として見ている力也を、美しいオルゴールの音楽が引き戻す。
テーブルに置きっぱなしだった携帯電話の着信だ。 そして、曲で設定しているのはひとりだけ。しかも、これは電話の着信音。
 碧のことはとても気にはなるが、後回しにして急いで電話に出る。

「もしもしっ!?」

今までどん底まで沈んでいたのに、柄にも無く弾んだ声を出してしまう。

『おっ 元気いいな、青少年! それともお楽しみ中だったとか?
ちゃんとヌいとかねぇと体に悪ぃからなあ。』

開口一番に下ネタを言うなんて、なんとも深美らしい。
 いつもならば、単に笑って受け流すけれど、力也は笑いながら、けれど心の中では違うことを考えていた。

(だったら、アンタがどうにかしてよ)

そう言ってしまえば、楽なのかもしれない。
楽になりたい。
 けれど、もし深美に受け入れてもらえなかったら?
冗談に思われたり、最悪、拒否されてしまったら?
 愛しい人に、そんなつもりは少しも無いと言われて、自分を保てる自信が無い。
だったら、何も言わない方がいい。 もう少しひとりで考えれば、どうにかなるかもしれないから
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ