astray


□コスプレ遊戯(前)
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「うんとね、ぼく、おつかいしたこと無くて。
それを学校で言ったら、おかしいって言われて。
そしたら、サクラちゃんが、じゃあはじめてのおつかいしましょ、って。」

普通、近所のスーパーで牛乳、とかじゃないのか、と力也は不思議に思う。

「俺、会社の車で送ってもらってんだけど、お前も乗って・・・」

言い掛けて、ハッとした。
 少し離れた場所にある電柱から、こちらを覗く人間が居る。 奏だ。
心配で着いてきたのだろう。 そういう、親みたいなことをする奏に、力也は微笑した。

「うん!ぼくも車でかえる!!!」

車、車、とはしゃぐ碧。

「いや、やっぱバスで帰るわ。」

「えぇーっ!?なんでぇっ!? 期待させただけ!?」

奏が居るから、とは言えずに、

「俺もたまにはバス乗りてぇから。」

なんて、苦しい言い訳をする。



 仕事が終わって、バス停でバスを待っていると、奏が偶然を装って、合流してきた。 我慢ができなかったのだろう。
 バスを降りてからは、碧を間に挟んで、3人で手を繋いで歩いた。
 それを、親子っぽい、と感じた力也は、自分が最近、危険思考に向かいつつあることを思い知った。





 控室の続きにある更衣室で、シャワーを浴びて汗を洗い流す。
 最近、やっと慣れてきたスーツに着替えようとロッカーを開けると、スーツが一式無い。

「はあ?」

ロッカーに、鍵はかけていない。
 それは、盗むような人間も居なければ、スーツなんて盗んでも何にもならないと思っていたから。
 けれど、現に今、目の前でスーツが紛失している。

「どーなってんだ?」

考えてみて、ふと思った。
 もしかしたら、桜がクリーニングに出したのかもしれない。

「言っといてくんないと、着替えが無ぇ・・・」

そう、力也は着替えを持ってきていない。
 脱衣カゴに作業服はあるが、せっかく汗などの臭いや汚れを落としたのに、意味が無い。
 これは、寒いのを我慢して、部屋まで取りに帰るしかないようだ。
寒い外の階段を経由して。
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