astray


□ガテン小僧ロック小僧
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 「リキ坊、んなトコで食ってんのか?」

シラス入りの卵焼きを口に含んだ時、先輩のテツが声をかけてきた。
 慌て弁当を隠しても、遅かった。
 テツは、ニヤニヤ笑いを浮かべて、他の職人たちに声を張り上げる。

「おい!リキ坊が彼女の手作り弁当食ってんぞ!!」

「ちょっ、テツさん、ちげぇって!!」

必死に止めるのも虚しく、わらわらと集まってきてしまった。

「リキ坊、生意気に手作り弁当かあ?」

「いつ彼女できたんだよ?カワイイ子か?」

「うわっ、すっげぇ豪華じゃん。ウチのカミさんなんか、昨日の余り物だぜ?」

思い思いに好き勝手な感想を述べる仲間たち。

「ちげぇって!!
これ、サクラさんが作ってくれたんだって!!」

桜の名前を出すと、一気に周りの目が痛いものを見る目になった。

「なんだ、男か。」

「けど、サクラさんって、この前のイケメンだろ?
ホストなんかやってても、気のいい野郎だったよなあ。」

「しかも、こんな美味そうな弁当作れんだな。リキ坊が羨ましいぜ。」

 でもオカマなんだけどね、とは言えずに、力也は複雑な気持ちになってしまった。
 ともあれ、これで隠れて昼を食べる必要は無さそうだ。オカズをとられる、という悩みは増えたが。





 19時すぎ。
開店準備を終えた頃から、少しずつお客が入りはじめている。
 カウンターでグラスを磨きながら、力也はイライラと従業員用の入り口を見つめていた。

「ったく、こんな時間になってんのに。
サクラさん。一度ビシっと言ってやってよ。」

力也が不機嫌そうに言うと、桜は心配そうにため息を吐いた。
珍しく、奏もカウンターに座ってタバコを吸っている。

「そうよねぇ。ホント、どうしたのかしら?」

桜が言ったのと同時に、ドアが勢い良く開いた。

「たっだいまあっ!!」

入ってきたのは、体のあちこちを泥で汚した碧だった。

「ミー君!!今、何時だと思ってるの!?
冬休みだからって、こんな時間まで・・・日が落ちる前に帰ってらっしゃいって、いつも言ってるでしょう!?」

眉を吊り上げて怒る桜に、碧は動じずに笑顔だ。

「あのね、ぼくはおとなの男だから、ホントは公園であそぶのなんか、つまんないんだよ?
ぼくは、ぜんぜん楽しくなんかないんだけど。」

あくまでも謝ろうとしない碧。

「・・・大人でも、公園は楽しい・・・ブランコ最高・・・」

会話に加わるつもりなのか、そうでないのか。タバコを吸いながらそっぽを向いている奏の発言を、桜は無視した。
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