astray


□幸せ味のオムライス
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胸騒ぎが収まらないままに、桜はユウの家の前に居た。

「リン!居るんでしょ?開けてちょうだい!」

 何度呼び鈴を鳴らしても、一向に人が出てくる気配が無い。
仕方なく大声を上げて扉を叩くと、中から人が走ってくる音が聞こえる。

「サっちゃん!どうしよう、オレ、オレ・・・」

出てくるなり竜胆は、真っ青な顔をして桜に抱きついた。

「ちょっと、落ち着きなさいよ。何があったの?ユウちゃんは?」

焦る気持ちを抑えて、優しく尋ねる。

「・・・とりあえず、中、入って。」

桜が来たことで安心したのか、しばらく背中を撫でられると、桜から離れて
家の中に入っていった。
 シン、と静まり返った部屋。一人暮らしにしては少々広すぎるくらい。
 リビングのソファに、対面する形で腰掛ける。

「それで?ユウちゃんはどこ?何があったの?」

俯いてじっとテーブルを見つめる竜胆。
何度も口を開いては、言葉を捜すように頭を振った。

「・・・サっちゃん、オレ、どうしたらいいのか解んなくて・・・」

そうしてやっと口を開いた竜胆の声は、弱々しく震えていた。

「話しかけても押入れから出てこないし、近づくとパニック起こして泣き叫ぶし、
無理に触ろうとしたら過呼吸起こして・・・」

辛そうに喋る竜胆の顔は、血の気が失せて真っ白になっている。

「ユウちゃんは、この家に居るのね?」

沢山を質問しても答えられそうに無いので、確認するようにたずねる。

「うん。押入れの中。」

「それで、どうしてユウちゃんは押入れなんかに入ってるの?」

その質問に、竜胆は一層辛そうに顔を歪めて、両手を組んで握り絞める。

「昨日の夜、怒鳴り声と悲鳴が聞こえたから、大家さんが警察に通報したんだ。
オレ、大家さんと仲良しだから、オレに連絡が来て・・・
 警察の人が言うにはね、ユウの職場で働く派遣社員が、ここ2ヶ月くらいユウに嫌がらせ
みたいなのをしてて、この家にも頻繁に来てたんだって。
加害者の人は動揺してて詳しく話せないし、ユウもあんな状態だし・・・
オレ、なんも知らなくて・・・親友なのに、なんも知らなくて・・・」

「それって、昨日、その派遣社員にユウちゃんが暴行された、ってことなの?」

「・・・それだけじゃないんだ・・・その・・・」

言葉を区切って、口に出すのも恐ろしい、という感じで頭を抱えた。

「・・・強姦、されかけたんだって・・・」

竜胆の言葉に、桜は言葉を失った。
 竜胆と一緒になって取り乱してはいけないと、冷静にならなければいけないと思っていたのに、
全身から力が抜けて、言葉が出ない。
 2ヶ月間、その間に2度、ユウは店に来ていた。
けれど、辛そうな素振りなど、一切していなかった。
気付いてあげることができなかった。
解っていれば未然に防げたというのに。

 「・・・それで?ユウちゃんの、ご両親は?」

やっと口をついて出た言葉。
ひとり暮らしだとは聞いていたが、息子の一大事に親が居ないのは妙だ。

「・・・親には絶対に知らせないでくれって、泣くから。
これ以上、自分のことで迷惑かけたくないって・・・」

「迷惑って・・・そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?
番号教えなさい。アタシが電話するから。」

こんな時に何を言っているのか、と、桜は竜胆に携帯電話を渡す。
けれど、竜胆は渡された携帯電話を閉じて、テーブルの上に置いてしまう。

「ダメなんだ。」

「何が?」

「ユウは、親に迷惑かけるのが、嫌なんだ。」

「だから、そんなこと言ってる場合じゃないって言ってるでしょう!?」

「これ話したらユウに怒られるけど、言うね。」

一度、寝室の方を見てゴメン、と言う。
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