astray


□幸せ味のオムライス〜桜side〜
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「最近のサっちゃん、変じゃね?」
次の予約客まで時間の空いた竜胆は、カウンターに座ってダルそうに言う。
「だよな。サクラさん、何かあったんかな?」
カウンター客も少く、割とヒマになっていた力也は、グラスを磨きながら竜胆の言葉に同意する。
「イチゴパフェ、大至急な。」
「何言ってんだ?仕事中だろが。」
「うっせぇな。今、ヒマだろ?」
ワガママ大王の竜胆に、これ以上何を言ったところで聞きもしないと諦め、力也は渋々パフェグラスを取り出す。
面倒くさそうに盛り付けながら、力也は小さく溜息を吐いた。
「なんか、最近イチゴメニューばっかじゃね?」
「だったら食わなきゃいいだろ?」
文句を言う竜胆に、間髪入れずに突っ込む力也。
「あれだろ?サっちゃんが仕入れ間違えて、大量にイチゴ注文しちゃったんだっけ?」
「サクラさんにしてはあり得ないミスだよな。」
桜の話をしているというのに、当の本人は間近に居るにも関わらず、何も言い返してこない。
 そんな桜を見て、力也がまた小さく溜息を吐いた。
「サクラさん、最近ぼーっとしてること多いよな。」
「こないだなんか、客の話聞いてなかったぞ?」
「注文も間違えたりするし。」
「オレが摘み食いしても、怒らないんだ。」
最近の桜の不調を報告し合って、2人は同時に溜息を吐いた。
 「つか、お前シズカちゃんとはどうなんだよ?」
もう話題に飽きたのか、竜胆はニヤニヤと笑いながら力也に尋ねる。
イベントの日、力也が深美と何かあった、というのは知れ渡っている事実だった。
「な、なに言い出すんだよ!?」
顔を真っ赤にして怒る力也の反応を見て、竜胆は一層楽しそうに笑う。
「どうなんだよ?教えろって。」
あまりにも嬉しそうに冷やかすので、力也はヤケになって
「そんなの、ラブラブに決まってんだろ?」
と、勝ち誇ったように笑う。


 カウンターで騒ぐ子供2人を、桜は怒る気にもなれずに黙って見ていた。
近頃の桜は、力也と竜胆の言うように、ミスばかりで、仕事に身が入らないでいた。
 イベントの日以来、何故かいつものような元気が出ず、ずっと気分が落ち込んでいるからなのかもしれない。
 イベントの日。
あの日は桜が主催しただけあって、大満足のものだった。
 けれど、その日を境に、確実に桜は調子を崩してしまっている。
その原因は、竜胆の言った言葉だということは自覚している。
 だからこそ、気になって仕方が無くて、気持ちの整理がつかずに、ずっと悶々と悩んでいるのだ。
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