astray


□コスプレ遊戯(前)
1ページ/12ページ



『件名:ヽ(´▽`)/

今日のイベント、楽しみにしてる



 深見からそんなメールが届いたのは、昼頃だった。
 セクハラメール以外のものは珍しい。
 けれど、それ以上に意味が解らない内容に、力也は頭を悩ませていた。
 イベント、とは何のことだろうか。
考えても、思い当たる節が無い。
 送り先を間違えたのかもしれない。後でメールしてみよう。
 そう結論づけて納得したとき、職人たちが、しきりに何かを気にしはじめた。

「オイ、お前話しかけてこいよ。」

「いや、俺、英語わかんねぇし。」

「バカ。お前、日本に居るんだから、日本語でいんだよ。」

「じゃあ、お前が行けよ。」

そんな会話が、力也の耳に入ってくる。
 そして皆、一様にフェンスの方を見ている。

「何見てんすか?・・・!?・・・なんで居んだよ!」

黄色の頭をキョロキョロさせて、作業場を覗く小さな姿。
 よく見知った姿に、力也は焦って、フェンスの入り口、トラックの搬入口に走る。

「おい!何してんだよ!?」

「あ、リキ兄だ!!」

力也を目にした途端、ランドセルをパカパカと鳴らしながら駆けてくる。
 短いようで、力也にとっては長い冬休みも終わって、碧は学校に行っている筈。
 始業式の朝、まだ寝る、とグズる碧を、奏が送っていったのが、昨日のこと。何故、ここに居るのだろうか?

「リキ兄来ちゃった

「来ちゃった、じゃねぇよ!
ガキがこんなトコ来たら危ねぇだろ!?」

「えへへっ☆」

力也の話を聞きもせず、両手をビシっと挙げて、抱っこして、の体制に入る。
 仕方なく、少しかがんで抱き上げてやる。

「お前、学校は?どうやってここが解ったんだ?」

来てしまったことを咎めても、何も言いそうにないので、疑問に思うことを聞いてみる。

「あのね、シャチョーさんにサクラちゃんが聞いて、ぼくがリキ兄をおむかえにきたんだ!『はじめてのおつかい』なんだよ!!
バスにだって、ひとりで乗れたんだ!!
エライ? エライ? 」

 はじめてのおつかいって・・・しかも俺の迎え?
 力也は、桜の考えていることが、さっぱり解らなかった。

「ね、エライ? エライ?」

「あー、エライエライ。
んで?何で迎え?どうせ、終わったらすぐ帰るんだし、もう仕事も終んだけど?」

終業の17時まであと10分程度。
いつも、遅くても18時には帰りついて、店の開店準備をしている。
充分に間に合う。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ