astray
□コスプレ遊戯(前)
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『件名:ヽ(´▽`)/
今日のイベント、楽しみにしてる
』
深見からそんなメールが届いたのは、昼頃だった。
セクハラメール以外のものは珍しい。
けれど、それ以上に意味が解らない内容に、力也は頭を悩ませていた。
イベント、とは何のことだろうか。
考えても、思い当たる節が無い。
送り先を間違えたのかもしれない。後でメールしてみよう。
そう結論づけて納得したとき、職人たちが、しきりに何かを気にしはじめた。
「オイ、お前話しかけてこいよ。」
「いや、俺、英語わかんねぇし。」
「バカ。お前、日本に居るんだから、日本語でいんだよ。」
「じゃあ、お前が行けよ。」
そんな会話が、力也の耳に入ってくる。
そして皆、一様にフェンスの方を見ている。
「何見てんすか?・・・!?・・・なんで居んだよ!」
黄色の頭をキョロキョロさせて、作業場を覗く小さな姿。
よく見知った姿に、力也は焦って、フェンスの入り口、トラックの搬入口に走る。
「おい!何してんだよ!?」
「あ、リキ兄だ!!」
力也を目にした途端、ランドセルをパカパカと鳴らしながら駆けてくる。
短いようで、力也にとっては長い冬休みも終わって、碧は学校に行っている筈。
始業式の朝、まだ寝る、とグズる碧を、奏が送っていったのが、昨日のこと。何故、ここに居るのだろうか?
「リキ兄来ちゃった」
「来ちゃった、じゃねぇよ!
ガキがこんなトコ来たら危ねぇだろ!?」
「えへへっ☆」
力也の話を聞きもせず、両手をビシっと挙げて、抱っこして、の体制に入る。
仕方なく、少しかがんで抱き上げてやる。
「お前、学校は?どうやってここが解ったんだ?」
来てしまったことを咎めても、何も言いそうにないので、疑問に思うことを聞いてみる。
「あのね、シャチョーさんにサクラちゃんが聞いて、ぼくがリキ兄をおむかえにきたんだ!『はじめてのおつかい』なんだよ!!
バスにだって、ひとりで乗れたんだ!!
エライ? エライ? 」
はじめてのおつかいって・・・しかも俺の迎え?
力也は、桜の考えていることが、さっぱり解らなかった。
「ね、エライ? エライ?」
「あー、エライエライ。
んで?何で迎え?どうせ、終わったらすぐ帰るんだし、もう仕事も終んだけど?」
終業の17時まであと10分程度。
いつも、遅くても18時には帰りついて、店の開店準備をしている。
充分に間に合う。