astray
□ガテン小僧ロック小僧
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仕事において、1日の内で最も待ち遠しい昼休憩。
力仕事をする職人たちにとって、とても重要な時間。
最近、力也は桜の手作り弁当を持参している。
店を閉めた後、朝食と一緒に作っておいてくれるのだ。
そのおかげで、力也は1人で弁当を食べるようになってしまった。
何故なら、彼女ナシの一人暮らしの男が、こんな凝った手作り弁当を食べているのは、妙以外の何物でもないから。
「しっかし、サクラさんって、なんでこんな事までしてくれんだろ?」
栄養バランスと、力也の好みを知り尽くした弁当を見て、力也は不思議に思う。
そういえば、と力也は思い出す。
『astray』で働くことを決めてすぐに、やはり筋を通しておきたい、と言う力也の為に、社長に挨拶に来たことがあった。
オーナーである桜、店長の奏、マネージャーの亮。
しかも、桜は
『印象悪くするといけないから』
と言って、その日は髪を黒くして、驚くことに、オネェ言葉をやめて男らしく振る舞っていた。
小綺麗で美形の3人が、せまっ苦しい事務所に並んで座っている様に、他の従業員は遠巻きに見ていた。
「リキは息子みてぇなもんで、そりゃもう、一等大事にしてんです。
そんな、言っちゃあ悪いがホストクラブなんてトコで働く、のは感心できねぇです。」
渋い顔をする社長。
ガテン一筋な力也が、突然ホストクラブで働く、と言ったのだから無理も無い。
「それに、昼の仕事に影響が出るでしょう?」
「いえ、大丈夫です。
力也君は、あくまで私共の手助けをしていただく為にスカウト致しましたので、勿論、未成年の彼には22時以降は働かせませんし、過酷と思われる作業は強いません。
もしも、夜に働く上で支障が出た、と判断されましたら、辞める、という形をとっていただいて構いませんから。」
そう言ったのは、奏だった。
いつもは無口で無表情な奏が、営業スマイルまでしていた。
力也は、はじめて常識人、というより人間らしい奏を見た。
その後、亮の作成した書類で細かな説明が成され、桜の人当たりの良さに、遠巻きに見ていた他の従業員も交えて酒盛りがはじまって、無事に働くことが出来るようになったのだ。
働きはじめて1ヶ月と少し。まだ昼の仕事に支障は出ていない。
それも、店への下宿の提案や、手作り弁当といった桜の心遣いのおかげだろう。