astray
□ガテン小僧☆育児ノイローゼ
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力也は最近、困っていることがある。
それは、深見の仕事が忙しくて中々会えないことで無く、桜がBLマンガをそっと、新聞配達よろしく、毎日部屋に置いていくことでも無く、ガテン仲間のテツさんにしつこく風俗に誘われることでも無い。
全ての原因は、小学校が冬休みに入ってしまったことなのかもしれない。
日曜の朝。
1週間分の疲れを取るために、いつもより少しだけ寝坊をしようとして目覚めると、もう昼が近かった。
寝坊は人を堕落させる、と、寝すぎてダルい体を動かしながら力也は思った。
このダルさは、シャワーでも浴びないと取れそうに無い。
仕方無く、重い体を起こして、店のシャワールームを使いに行くことにする。
住みはじめて1ヶ月とちょっと。ようやく自分の家、という感覚に なりつつある。
意識しなくても、勝手に足は店への階段を降りていく。はじめの頃はあんなに奇妙に思えたこのビルにも、心なしか愛着のようなものも湧いているように感じる。
本当に、『慣れ』というものは恐いものだ。
半乾きの頭をタオルで拭きながら、タバコに火を点けてベッドに腰掛ける。
「むぅ・・・」
ベッドの端に寄せた布団が、モゾモゾと動きはじめる。
それを割と冷静に眺めて、小さくため息を吐いた。
「・・・リキにぃ、おはよぅ」
布団から顔だけ出して、碧が呂律のまわらない感じで言う。
「おはよ、じゃねぇよ。ひとりで寝んのが嫌なら、言えばいいだろ?
なんで勝手にもぐり込んでくんだよ・・・」
「ちがうよ。リキ兄がさむいんじゃないかって思ったんだよ。ぼくはひとりでもぜ〜んぜん大丈夫なんだけどね!」
「・・・あっそ。」
反論する気にもなれず、碧のことは放っておくことにする。
もうほとんど、日課になりつつある、深見への『おはよう』メールを送る。
ここ1週間、仕事が忙しいらしく、なかなかメールが返ってこない。
けれど、昼なんかに送ったら、もしかしたら何か返事が返ってくるんじゃないかと、少し期待する。
そしてもしかしたら、今日は日曜日だから、開店時間までどこかに行こうというお誘いがあるかもしれない、と少し期待する。
そんな風に考える自分に気付いて、恥ずかしさが込み上げてくる。
「ねえリキ兄。ぼく、宿題やろっかなあ?」
「うげっ・・・」
冬休みの宿題。
これが、ここ最近の力也を困らせている原因のひとつだった。