キリエル

□忘却
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一応死ネタ。
悲恋(?)注意(´・ω・`)













最近、なんだか変な感覚がある。
気付いたら、何かが足りないような、そんな気分になる。
それを最初に感じるのは朝で、起きた時にふと隣を見てしまう。
もちろん何も無い。強いて言うなら、作りかけの彫刻とか、そんな物が転がっているだけだ。
そんな感じで、ここ最近は違和感を感じながら過ごしている。


旅が終わって、一年。
オレが、柄でもなく『英雄』と呼ばれるようになってから、もう一年が経つ。




祭の準備のために広場に向かうと、その途中でスイに会った。
また何か面倒事を起こしそうだから、早いうちに釘を刺しておく。一日に三回くらいは言っておかなければ効果が現れない。面倒な奴だ。
分かってる、なんて心にも無いことを言いやがるスイの態度に呆れながら、とりあえず広場に向かうことにする。時間が思ってる以上に押してるな、こりゃ。

スイに別れを告げて向かおうとすると、


「……ごめんな、キリ、―――」


……?今、謝られたか?
振り向くと、スイはもう立ち去っていた。
……謝られる意味がよく分からないが、まぁ、意味不明なのはいつもの事だしな。あんまり気にしてられない。
とにかく今は広場に行かないと。急げ急げ!


そういえば。

スイはオレと、もう一人の名前を言っていた気がしたんだけど、気のせいか?





昼前にタームを出て、デオドラドへ向かう。
目的は、足りなくなった資材の調達。一応責任者だから、その確認に駆り出されてしまったわけで。
まぁそれくらいなら文句は無い。久々に、あいつにも会えるし。

というわけで、デオドラドについて真っ先に向かったのは、定食屋。
少し遅めの昼食になる時間にも関わらず、そいつはお子様ランチを黙々と食べていた。
言わずとも分かるだろう。その人物とは、紛れも無くファランだ。
共に旅をした仲間であり、またオレ達の師匠でもあるファランは、やっぱりその内面は変わらず、可愛い物好きだったりする。

軽く挨拶を交わして向かいに座り、遅めの昼食を摂ることにする。たまには外食もいいもんだ。
他愛もない話をしながら昼食を食べ進めていく。その間、ファランはちょくちょくオレの隣を見ていた。なんだ、オレには見えない何かがいるのか?こえぇよ。

気付いたら割と時間が過ぎており、少し焦りながら店を出た。
ファランもついて来たから、店の前で別れることになった。
今度またゆっくり話すか。ケーキくらいなら焼いて持って行ってやるよ。
そうして、別れる直前、


「……『英雄』は、忙しいな?」


……あんたまでそんな呼び方をするか。苦手なんだよ、そう呼ばれるの。
それに、『英雄』はオレ一人じゃないさ。あんたやスイがいてくれたから、オレは協会本部まで辿り着けたんだからさ。
3人揃って、初めて『英雄』だよ。

そう答えると、ファランはそうか、と言って去っていった。
……なんだろう、なんとなく、ファランの表情が寂しそうに見えた気がした。気のせいか?
おっと、オレはさっさと用事を済ませないと。考えるのは後回しだ。


しかし。

ファランは、オレと、誰の師匠だったんだっけ?





翌日。
祭の準備もない今日は、ぶっちゃけ暇だった。
だから、ここに来た。

タームの外れにある、かつてシスター達の隠れ教会だった、聖アルル教会。
そこで一番綺麗に飾られている、誰かの墓。
なんでも、この人も『英雄』らしい。しかも女。スゲーよな、一体何をやったんだ?

オレはここに眠る人を知らない。
いや、名前なら墓石に彫ってあるから分かるんだけど、名前だけじゃさすがにどんな人かは分からない。
分かるのは名前だけで、姿形をまったく知らない人。そんなの、知っている人とは呼べない。
なのに、オレはたまにここへ来てしまう。
なんでだろう?

……ホントは、分かってるんだ。
この人は、きっと、オレ達の仲間だったんだ。
オレは覚えていない、どこかの誰か。
オレは、スイと、ファランと、3人で旅をしていたとしか記憶していない。
でも、なぜか分かる。いや、分かるというか、そんな気がする、程度の感覚なんだけどさ。
だっておかしくないか?
スイがたまに知らない人の名前を口にするとか、ファランがオレと誰にあの武術を教えていたのかとか。
そんなの考える前にさ、もっと単純な事があるんだ。

『オレは何故、協会本部へ向かったのか?』

もちろんそれが間違っているとは思わない。
それを後悔したりもしない。
でもさ。
オレがトロイにかからない、って証明されなければ、オレは協会本部には向かわなかったよな?

……たぶん、それに気付いたのが、この人なんだと思う。
それなら話のつじつまが合う。
でも、納得いかない。
もしそうなら、オレはなんで、そんな大事な存在を記憶ごと失ってしまったのか。
分からない。
だから、オレはこの人を知らない。
知る事が出来ない。
だってしょうがないじゃないか。
覚えてないんだから。


「うん、しょうがない」


呟いて、振り返る。
ここに来る時は、いつもこんな感じだ。
来ては思い出そうとして、出来ないと理解したら帰る。
だから、ここにいる時間はすごく短い。
暇つぶしには程遠い短い時間を過ごして帰り、そしてまたしばらくしたらまたここへ来る。
我ながら、何がしたいんだろうね。


でも。


「また、来るよ」


悪い気はしないから、いいさ。



見上げると、眩しいほどの蒼い空。
いつだったか、その蒼がすぐ近くにいた。


気がした。













――――――――――――
こういう話はぶっちゃけ書いてて辛いです(´・ω・`)ハッピーエンドが一番だって…!

エルーはその、旅の途中で……っていう設定で、キリはショックで記憶を一部喪失……みたい、な(汗

最初、キリはもっと薄情でした。
「思い出せないような、忘れちゃうような人なら、別にどうでもよかったんじゃん?」
とか言わせてましたごめんなさいぃぃ!!(土下座
やっぱりキリエルは二人揃っていないと…

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