キリエル

□聖夜協奏曲〈Side:K&E〉
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12月24日。
世間はクリスマス一色で、いつもはすでに静まりつつあるこの時間でも、まだ街は賑わっているのを感じられた。



「今日はずいぶん賑やかですね」

「ま、そりゃな」



エルーの言葉に応えながら、サラダをボウルに盛りつける。
……よし、完成。
あとは、買い出しに行ったスイとファランが帰ってこないと作れないから待つしかないんだけど…



「さて、スイとファランは?」

「うーん……まだみたいですね」



エルーが窓の外を覗いてみるが、大通りに面した窓からでも確認できなかったようだ。
どうやら、もう少し時間がかかるらしい。



「ん、じゃあちょっと休んどくか。あんたもずっと立ってて疲れたろ?」

「ふふ、私よりもキリさんが座りたいんじゃないんですか?」

「……まぁね」



そんな言葉を交わしながらソファに座る。
ずっと立って料理していたせいで少し疲れている脚や腰に、このソファの柔らかさは有り難い。

隣を見てみると、同じ気持ちなのかエルーも軽く息を吐きながら座り込んでいた。
まぁ、この人も料理こそしてないけど、ずっと立ったまま手伝ってくれてたしな……



「しっかし…スイも突然言い出すんだもんなぁ…」

「そうですね…」



少し前の状況を思い出す。
今日くらいは少し夕食を豪華にしようと、レッスンを早めに切り上げて、皆で買い出しから帰って来た時のこと。



『なぁキリ、当然今日はチェリーケーキ作るんだろ?』

『あ?』

『つか、作れ』

『命令かよ……まぁ、別にいいけどさ』

『よっしゃ!んじゃ早速……』

『…?どうしたんですか、スイさん?』

『……チェリー缶が、もう無い』

『そりゃ残念だったな、まぁ諦『買ってくる!!』ってオイ!』

『なんだよ!』

『……ファラン、付いてってやってくれ』

『……何故だ』

『こいつ、この調子だと面倒事起こしそうで。オレは料理しなくちゃいけないし、エルーはオレと一緒にいないといけないし』

『…………』

『あぁ!?キリ、お前何言ってんだ!』

『……ハンバーグの材料も一緒に買ってきたら、メインはハンバーグにしてやるから』

『行ってくる』

『あ!おま………あぁもう!なんなんだよ!つか、ハンバーグってなんで!』

『……それはファランに聞け。ていうか早く行かないと、さくらんぼ売り切れるかもしれないぞ?』

『〜〜〜!キリ、あとでシメるからな!』

『い…行ってらっしゃ…!』

『……エルー、ハンバーグは笑わないであげて』



そんなことがあり、スイとファランは買い出しに行った。
ていうか、チェリーケーキって何?
オレは初めて聞いたんだけど……まぁ、ショートケーキの苺の代わりにさくらんぼをトッピングすりゃいいだろ。←適当



「しかし、クリスマスか……」



そういや去年は、当たり前だけど家族3人で過ごしたんだっけ。
……途中からスイが乱入して来たから4人になったけど。
そういやその時に父ちゃんと母ちゃんから貰ったプレゼントをスイに奪われたんだ。
……絵の具とかだったからすぐに返されたけど。

去年だけじゃない、一昨年だって、その前だって。
今までずっと、そうやって過ごしてきた。
それが――今年になってこれほどに変わるなんて。



「……キリさん?」

「ん、あぁ、何?」

「いえ、ぼーっとしていたから……」

「あぁ。いや、今年は今までとは違う過ごし方になったな、って」



笑いながらそう言うと、そういうことですか、と言ってエルーも笑った。

――そう。今までとは違う。
だって今年は、エルーがいる。
大切な人と一緒に過ごせる。
それは、とても特別なことで――同時に、嬉しいことでもある。



「エルー」

「はい?」



だから、

こんなことを言えたのは、きっとそんな考えがオレの思考を正常なものにさせなかったからだ。



「オレさ、やっぱりあんたのこと大好きだ」

「………………はい?」



直後に思った。
ああ、言っちまったなぁ……

顔が熱くなっていく。
オレは、こんなことを口にして平気でいられるような人間じゃない。
あぁ、ホントにその時はどうかしてたんだ。

エルーは口をぽかん、と開いたまま動かない。
まるで意識がどこかに飛んでいってしまってるみたいだ。

……ホントのホントに、オレはどうかしてたんだ。



「…可愛いな、あんた」

「はわっ!?」



こんな、追い討ちをかけるようなことまで言ってしまうなんて。



「キキキキリさん!?」

「何?」

「何、じゃないでしょぉぉ!!なんでまたいきなりそんな!?」

「あー……うん、なんでだろう」

「な、なんでだろうって……」

「まぁ、事実だし」

「―――っ!!」



思考は正常じゃないくせに、クリアだった。
いやまぁ、事実なのは間違いないんだけど。そういう意味では正常だ。



「私が、か、かか可愛いなんて…!」



エルーはオレ以上に真っ赤になりながら口をもごもごと動かして、ついには俯いてしまった。
青い髪の隙間から除く耳が真っ赤になっていて、よく目立つ。

――そんな俯いている様子が、なんだかいつもより愛しく見えて。



「キ、キリさん!?」



気がついたら抱きしめていた。



「あああの、キリさん、今日は、どうされたのでしょうか…!」

「エルー、」

「はひ!!」



聞きたいことがあってエルーの名を呼ぶと、とんでもなく動揺したまま返事を返してきた。
それすらも愛しく感じて、口を緩めながら問う。



「あんたは?」

「、は?」

「オレのこと、嫌い?」



あぁ、オレは卑怯者だ。
この人が断れない人だって知りながら、こんな質問をしている。



「き、嫌いなワケ、ないじゃないですか…!」



それでも、律義に返してくれる。
それが嬉しくて、質問を重ねる。



「じゃあ、どう思ってんの?」

「う…!」

「ね、どう?」

「うぅ〜〜…!」



あぁ、ホントに可愛い。
そんなこと思ってたら、唐突にエルーが顔をあげ、



「……大好きに、決まってるじゃないですか…!」



―――なんて、

理性がぶっ飛びそうな顔で言ってくれました。



「エールーー!!」

「フギャァァァ!!」



いつぞやのような叫び声をあげるエルーをきつく抱きしめる。
あんな嬉しいこと言ってくれたんだ、そりゃあ理性だって飛びますよ!



「ちょ、キリさん、待っ…!」



制止しようとするエルーのあごを上げる。
真っ赤な顔と、エメラルドの瞳がこちらを向いているだけでダメになりそう。



「エルー…」

「キ、キリさん…!」



二人の顔が近づく。
エルーは覚悟を決めたのか、きつく目をつぶって待ち構えている。

そんな様子にくすり、と笑いながら、

二つの影が重な



「ただいまー!!」



――る瞬間に、スイが帰ってきやがった。

2人して真っ赤な顔をしながら、これまた何故か真っ赤な顔をしているスイを見る。


その最中、オレが考えていたのは、
あぁ、スイにシメられるのかなぁ。
なんて、どうでもいいことだった。

……ホントに、オレはどうかしてたんだ。
……そうに違いない。そうだと言ってくれ…!













――――――――――――
ごめんなさい←挨拶
も、ホントに何がしたかったのか…!
単に照れたエルーが書きたかっただけなんです。それがこんなんになっちゃうとは…orz
なんつーか、グダグダ絶好調?(爆

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