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次に目を開けると、既に日が昇り周囲は明るくなっていた。いつの間にか眠っていたらしい。

「ていうか、気絶?」

よく気絶する日だった、と遠い目で太陽を拝んでから、ルカは状況を確認する事にした。

きちんと布団に寝かされており、手も足もついているし魂を吸われた様子もない。
昨晩現れた市は別にルカを害をなそうとした訳ではなかったようだ。

「勘違いして悪い事しちゃったな…」

枕元には着物が置かれている。着替えという事だろうかとまずは手に取ってみた。

「わ…絶対良い生地」

滑らかな触り心地に思わず感動してしまう。しばらく帯と一緒に眺めていると、障子の向こうに人がやって来たのが見えた。
シルエットで分かる。

「あ、どうぞお市様!」

声をかけると無駄のない所作で市が入ってくる。ルカを認めてにこりと笑うと、昨晩の恐怖映像が嘘のように美しい。

「おはよう、光色さん」
「おはようございます、お市様。あの…泊めて頂きありがとうございました。私はルカと申します」

そう、と頷くと市はルカを見つめる。どきどきしながらその視線を受けていると、ぽつりぽつりとまた彼女が話し始めた。

「よく、眠れた…?」
「はい! お陰様で。ですが…何故私の事を?」
「……見えたの」

ゆっくりな彼女のテンポ。ルカは辛抱強く待つ事にした。

「光るあなたが…降ってきて…市を楽しませてくれるの…」
「楽…?」
「ずうっと、側にいてね…光色のルカ…」

知らないうちに変な呼び名になっている。
それにも少し焦ったが、ルカは背中におかしな気配を感じて恐ろしくなった。
そっと伺うと、背後の床が黒く淀んで、触手の先端が見え隠れしている。

「……」
「側に…いるよね…?」
「は…はは…」

ぎこちなく市へと視線を戻し、ルカは乾いた笑いを漏らした。

万が一断りでもしたら、その瞬間に命がなくなる。

すぐさま姿勢を正し、ルカは土下座する勢いで頭を下げた。

「勿論です! 宜しくお願いします!」
「…ふふふ…ありがとう」

すると満足そうに笑い市が出ていく。部屋に一人残されると一気に緊張が抜けて、ルカは息を吐いた。

「な、何でこんな事に…」

だがしかし、良く考えればいきなり居場所が出来たのはかなりの幸運。それに悪い待遇ではない。
そう思い直して、ルカはまた安堵の息を吐く。

「そうだよね。助かったんだよね、私」

あのまま山に一人で放り出されていたら、どうなっていたか分からない。
想像もつかなかったが、屋根の下でぬくぬくと眠る事が出来なかったのは確実なのだから。

「武蔵に感謝しなきゃ…って、あ! 武蔵!」

昨晩捕われた彼はどうなっているのだろう。
思い出すと気になって、ルカは立ち上がる。

腹が鳴った。

「……」

とにかく、やる事はたくさんある。
お腹をさすりつつ、まずは着替えを何とかしようと、助けを呼びに廊下へ飛び出した。





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