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織田包囲網と、実に分かりやすく名付けられていた作戦は、一応の終結を見せた。

城の上空に現れた謎の力が安土城を覆い、対抗した信長の力とぶつかり合った結果、城は消失。信長も行方知れずとなった。

それが、包囲網に参加した代表者たちに告げられた内容である。

勿論、嘘ではない。
しかし全てを話した訳ではない。

それは、あの時信長と対峙した政宗自身と幸村、彼らにごく近い関係者しか知らない事。
と言っても幸村は、全て見てはいたが説明できる程状況を理解していないだろうが。

ともあれ、特に同盟を結んだ訳でもない相手に何もかも話すような愚かな事はしなかったし、幸村から報告を受けているだろう武田方も何も言っていない。

「政宗様」

廊下で控えていた小十郎が呼び掛けるのを機に、政宗は読んでいた文から顔を上げる。

「なんだ」
「失礼します」

室内へ入り、小十郎がまた文を手にしているのを見て眉をひそめた。

「またかよ…」
「返事の催促のようですが…」
「放っとけ」
「ですが。この小十郎もそろそろ納得のいく説明を頂きたいのです」

お前もか、と内心呟きながら政宗は部屋の外へと目を向ける。

「得体の知れぬあの娘…連れ帰り介抱して、如何するおつもりか」
「……あいつが目を覚ましたら考えるって、言っただろうが」
「しかし…っ」

ルカはあれからずっと意識を失ったままだ。細かな外傷はあるが、目覚めない理由は怪我ではないのだろう。

「俺だって正直わかんねぇよ。報告じゃ、本当にただの娘だって言ってたしな。けど、魔王のオッサンが…あの魔王が手を出すなって言う女を捨て置くなんざできねぇだろ」
「それは…」

安土城の頂上で起きた事を、政宗は既に何度もこの腹心に言って聞かせている。

が、はっきりと言えないのがあの時の信長の言葉の真相だ。
ゆめゆめ忘れるな、と念を押されたのは、あれはもしかしたら『託された』のではないか。

魔王がそこまで気にかける理由はきっと、あの得体の知れない力が原因で、あれが一体何だったのかと聞かれても、直面した政宗にも分からない。
だがあれは途方もなく膨大な力の結集であり、それが安土城もろとも魔王を飲み込むという結果に繋がったのだ。

眉間の皺をいつも以上に深くした小十郎が何かいいかけたが、背後に訪問者があるのに気付き沈黙する。

「どうした?」

政宗が声をかけると、焦った声が返答した。

「保護した娘が目覚めました」

小十郎が政宗を見る。肩をすくめてみせて、政宗は立ち上がった。

「なら、行くぞ小十郎」
「……はっ」



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