閃光

□09.5
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久々に会えたというのにその不機嫌ぶりを隠そうとしない友人を前にして、梓は困り果てていた。
かける言葉を探してみるが、今は何を言っても怒られそうな気がする。

ためらいつつ機会を伺っていると、この友人とは正直あまり仲が良いとは言えない二人が揃って口を開いた。

「梓。今回ばかりは某、かすが殿のお気持ちがよく分かる」
「うんうん。俺様も同意だね。ほら、かすがからも言ってよ」
「そうだな。この役立たず共が本当に役立たずだという話はこの際置いておく」
「……うん…ごめんね、役立たずで」

佐助が酷く傷ついた顔で俯いたが、かすがは鼻で笑い飛ばす。
ジロリ、と梓に鋭い眼差しを向けてきた。

「梓。お前は先日、真田に嫁いだな」
「は、はい…」

有無を言わさぬ、もはや殺気の域ではないかと思える空気を発しながら、上杉の美しき剣が目を細める。その迫力は凄まじく、梓はじりじりと後退りながら頷きを返した。

武田信玄の娘として真田家に嫁いだ。
だが、それまでには数々の武将から手合わせの申し入れがあり、やっと勝ったと思ったら祝辞とともに次の相手の元へ送り出され…と正直、梓はもう思い出したくない。
とにかく、信玄まで辿り着いて婚姻の話がまとまるには大変な試練の連続だったのだ。
勿論かすがも参戦していたし、先日終えた輿入れも参列してくれていた。

「まがりなりにもこいつは武将だぞ。しかも、今は武田の大将だ」
「はい…」
「その奥方が、なぜ普通に忍の仕事を続けているんだ!!」
「えーっと…」

彼女の言いたい事は、勿論わかる。
忍頭の佐助が多忙なのはいつもの事だが、その配下も例に漏れず多忙を極める苛酷な職種である。
それが分かっているだけに、嫁いだからと言ってすぐに切り換えできるかと言えば答えは否。
つい、手伝ってしまうのだ。

口ごもった梓を見て、佐助が溜め息をついた。

「そりゃあね、梓ちゃんが手伝ってくれたら助かるけど…今は真田の大将の奥様な訳だからさ、実は俺様より偉いんだよ、梓ちゃん」
「…」
「仲間内では良いけど、やっぱり外から見たら良くない。ちゃんと緊急時は手を借りるから、お願い」
「うむ。某からも改めて頼みたい。それに、その…折角念願叶って夫婦となれたのだし…」

途中から幸村が真っ赤になってしまい続く言葉は飲み込まれてしまったが、言われずとも何やら照れてしまう。
かすがもやや頬を赤くしていて、わざとらしく咳払いした。

「とにかく!! お前は早く新しい生活に慣れろ」
「はい…すみません、皆さん…」
「よし。ではまず着替えだな。準備できているな、真田」
「隣の間に用意してござる」
「よし」
「え、えっ!?」

いつの間に打ち合わせたのだろうか。
かすがに手を引かれて隣の部屋に入ると、そこでは既に女中たちが臨戦態勢に入っていた。

思わず身構える梓だったが、かすがが容赦なく背中を押した。

「かすがさん…、ま、待って、心の準備が…っ」
「それは着替えながらしろ」
「ああ、あのっ皆さん待っ…」

気づけば忍装束が既に半分脱がされている。
そして皆、嬉しそうだ。

「真田の妻は天下一の美姫だと言わせてやるんだぞ、皆しっかり頼む」

お任せください、と皆が口々に言うのを聞き、梓は泣きそうになった。




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