閃光
□extra stage!!
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◎紅主×三成 if
ふと、顔を上げて。
囁くほどの声で、彼女の名を呼んだ。
すぐさま部屋の前に誰かが降り立つ気配がある。
お呼び頂ければ必ず参ります、という彼女の宣言通り、今のところ、三成が呼ぶと彼女はいくつ数える間もなくやってくる。
「…今、笛を吹いていたのは貴様か」
「はい」
夜になると城のどこからか聞こえていたもの悲しい笛の音。
いつから聞こえるようになったのだ、と思い巡らせれば、それはこの不可思議な忍が城に居ついてからだった。
案の定肯定を返した彼女に、三成は一言命じる。
「吹け」
廊下で、わずかに緊張した気配が伝わる。
いらだちを込めて睨みつけると、衣擦れの音がして、答えが返ってきた。
初めて近くで耳にする、澄んだ笛の音。
もの悲しいが、それは痛みを伴うものではなく、むしろそれを取り除こうと、優しく撫でていくような旋律だった。
いつも、この忍が誰の為に奏でているのか。
誰を想い、悲しみを癒そうとしているのか。
好きにしろ、と言ったきり彼女を城に置きっぱなしの三成には、彼女の事情などよく分からない。
だが、おそらくその相手を、自分は知っている気がした。
「……私が眠るまでそこで吹いていろ」
告げると、三成はゆっくり壁にもたれ、目を閉じる。
悲しみの音色が、甘く響いていた。
20110603