閃光

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【大坂・冬の陣】

戦の匂いがする。
火薬と、悲鳴と、血の匂いだ。
そのさなかを幸村が槍を振るって突き進む姿が脳裏をよぎる。
厳しい顔をした佐助が皆に指示を出す声が聞こえてくる気がする。
そして、心汰が刀を鮮血に染めて動き回る様も。

震える手に力をこめて、今すぐ駆け付けたい気持ちを無理やりに胸の奥底へと押し込めた。

軽く息を吐き出して、足下に広がる景色を睨む。
なかなかに立派な城だ。
だが、幸村たちの目指す城とは違う。
この地に住まうのは、今、最速で石田軍への援軍を出せる唯一の武将。

小早川秀秋。

彼が決断する前に到着できたのは幸運か、必然か。
ともかく主君の為なら時に非情になるのが忍というもの。

手始めに仕掛けた爆薬が弾けて、すぐに右往左往する兵士たちが視界に飛び込んできた。
計画通りに事が進んでも、決して気を緩めたりしない。

梓の目が冷たく人々を追いかけ、しなやかに宙を舞うと、一番に逃げ出そうとしていたその男の行く先へと着地を決めた。

「ひぃっ!! だ、だだだだ誰ぇ!?」
「……小早川秀秋様とお見受け致します」
「あっ、そうです…えっ!? いえ、違うっ違…ぼ僕は…えっと、あのだから…」

鍋を背負い落ち着きなく走り回るその姿は上から見ていれば相当目立つのだが、彼は自分が話しかけられ、しかも正体を見抜かれてしまった事実に大変驚いていた。

思わず笑みが漏れてしまいそうな応答ではあったが、問答無用。
梓は無言で鞘から刀を引き抜いた。
既に青くなっていた小早川の顔からさらに血の気が引いて白くなっていく。

「小早川様。貴方様には何の恨みもございませんが、これも武田の勝利の為…」
「え?…へ?」

腰が抜けたのか、立ち上がって逃げ出す気配はない。
そんな彼へ、ようやくにこりと笑ってみせて。
梓は静かに歩み寄った。

刀がギラリと陽光を反射する。

「私に、暗殺されてくださいませ」
「ひぃいいやぁあああ!!」

風と共に、閃光が走り抜けた。




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