色々夢

□執事の☆プリンスさまっ♪
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♪2


扉が閉じたのを確認して、砂月と那月はもと来た道を引き返す。
あとは、二人とも客席から彼女を見守るだけだ。

「もう、さっちゃんもハルちゃんに何か言ってあげればいいのに」
「何をだ」

那月が言いたいことは分かりきっていたが、会話の流れでおざなりに言葉を返す。

「頑張ってとか?」
「必要ないだろ。あいつにこれ以上何を頑張らせるんだ」
「……ふふ、そういうところなんだけどなぁ」

そう返す那月の柔らかな声に諦めのようなものが混じっている。
今までもよく言われた言葉だが、砂月は意味が分からない。おそらく、言葉が足りないとかそういうことなのだろうと思うが、こればかりはどうしようもない。
砂月は無言を貫いて客席へと歩を進めた。

「ねえ、ハルちゃんは、さっちゃんがハルちゃんのこと好きじゃないって思ってますよ?」
「知ってる」

春歌が砂月に苦手意識を持っているのは、分かっている。これだけいつも側に居て、見ているのだ。
那月と話す時と全く違う反応を見せる春歌に気づかない訳がない。

それに、苦手になるのもよく分かる。それほどに、砂月は春歌に対して思いやりのない態度をとっている。

なにせ、春歌はあれほどの才能を持ちながらその自覚が露ほどもないのだ。藍や那月のように、誉めそやして、完璧にエスコートするだけでは足りない。もっと、彼女自身が危機意識を持たなければいけない。
その為ならば、たとえ嫌われても──

「まぁでも、好きじゃないっていうのは、正しいですよね」
「……何?」

思ってもみない事を言われ、砂月は振り返る。するといつの間にか、那月は息が触れあうほど近くに身を寄せてきていた。眼鏡越しなのに、その目線の強さにドキリとする。

「だって」

肩に置かれた手は、砂月の身動きを許してはくれない。ゆっくりと動く那月の唇に、視線が吸い寄せられる。

「好きじゃなくて…」

この至近距離、圧倒的な威圧を放つ那月。こういう時の那月は、砂月ですら恐ろしいと思う。
今回のこれは、怒りか、悲しみか、それとも──

ぐっと近づいて、耳に息がかかる。

「愛してる、でしょう?」
「なっ!?」

その囁きは、爆弾のように脳内に響き渡った。
言葉の意味が浸透するにつれ、全身が熱を持ったように熱くなる。

「お、お前っ、何を言って──」
「あれ? 違いましたかあ〜?」

先程までの威圧が嘘のように、春の野原のような空気を醸して笑う那月はどこか楽しそうだ。
からかわれた、のだろうか。
言い返す言葉を失って、砂月は口をつぐむ。

「あ、さっちゃん! 早く行かないとハルちゃんの出番が来ちゃいますよお〜」
「……ああ」

案の定違う会場の入り口に向かおうとした那月を止め、腕を掴んで正しい場所へ引っ張っていく。

「さっちゃん、さっちゃん!」
「なんだ」
「さっきの、ぼく、からかったわけじゃないですからね?」
「…………分かってる」

そうだ。那月は人の感情で遊んだりしない。そんな、残酷な事をするはずがない。
砂月はそう思い直し、冷静さを取り戻した頭で思考をめぐらせた。

あれは、砂月の事を言い当てたというよりも、那月が自分の事を言っただけなのだろう。

そう思い至って、砂月は自然と眉を寄せていた。

双子の彼らにしか分からない、この感覚。
同じ感情を共有している、というこれだ。

「お前も……か」
「ん? なんですか?」

砂月のつぶやきは、扉の向こうの歓声にうまく消されたようだ。
無邪気に首を傾げる那月に軽く笑みを返して、砂月は扉を押し開けた。













20200307
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那月と砂月を同時生存させて書こうとするとなんかいつも那月の性格がちょっと歪みがちなんです…私の中の那月がそうなってるんだな……ゲームやり直しますすみません……
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