色々夢
□執事の☆プリンスさまっ♪
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那月・砂月 双子設定
二人は藍の下で働く執事見習い兼ボディーガード
春歌→護衛対象のお嬢様
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♪1
ふわりと漂う香りはとても豊かで、華やかだ。カップを傾ければ、その香りのままの味が口の中に広がる。
「……おいしいです。とても」
「ふふふ。良かったです」
ほっと息をつきながら溢れた感想に、穏やかな声が返る。斜向かいに座る那月は柔らかな笑みを浮かべて、肘をついて春歌を見上げるようにしている。
眼鏡の奥からこちらを見つめる優しい目はいつも通りで、春歌はここがどこなのか、忘れてしまいそうになった。
ここはラウンジである。ホテルではなく、ピアノコンクールの会場となっているホールのラウンジである。
春歌に護衛が必要なことは承知しているため、一番近くに居ることになる那月と砂月にはあまり目立たないよう、今回は私服で付いてきてもらった。
だと言うのに、那月がなぜかラウンジに着くなりどこからともなくティーセットを取り出し紅茶を振る舞ってくれた為、結局ものすごく注目されている。
いや、そもそも、この見目麗しい双子が揃っているだけでどうにも目を引くのだから、私服でお願いしたところからして逆効果だったようだ。
春歌は諦めの境地で、差し出された紅茶を飲むことに集中する。
せっかく、緊張を解きほぐそうと用意してくれたものだ。この時間を無駄にしたくない。
ティーカップを傾けながら、ちらりと那月に目をつける。
いつも、執事兼ボディーガードとしてついていてくれるから、スーツではない二人の私服を見るのは初めてだ。
那月の方は、シンプルな黒シャツとデニム、スエードのライダースジャケットにブーツという出で立ちで、似合っているが、いつもの柔らかな雰囲気からはちょっと想像できなくて春歌は意外に思った。
砂月の方は、春歌の座るソファに背を向けて立っているので今は見えないが、タートルネックと細身のパンツ、スニーカーも全て黒で統一されていた。キャメル色のコートは、たたまれて腕にかけられたまま。鋭い空気を発して、ラウンジ内を見渡している。
やはり、と春歌の気持ちが沈みこむ。彼はいつも、いつだって春歌と目を合わせてくれない。最低限の会話しかなく、それもほとんどが厳しい指摘ばかりである。勿論どれも正しい指摘で、ぼんやりしている時にはハッとさせられるし、特にピアノに対してのそれは技術上達という点で非常にありがたいものである。
しかし、その度に彼にとっては『仕事』以外の何ものでもないのだという事実を突きつけられて、春歌は悲しくなる。
彼の強さに、言葉にどれほど救われてきただろう。そう思って礼を告げても、彼は受け取ってくれない。いつも守ってくれるのに、こちらからは近づかせてくれない。
今だってそう。彼はずっと、背を向けている。
こんなに近いのに、距離が遠い。
「──そろそろ移動するぞ」
振り返ると、砂月が腕時計を確認しながら那月に目を向けていた。
はい、と那月が返事をして、立ち上がる。
「え、あれ?」
さっきまでローテーブルに広がっていたティーセットがもうない。しかも那月は手ぶらで、あのカップたちがどこに消えたのかも分からない。
「ハルちゃん、ぼくたちは舞台袖に入れませんが、代わりに藍ちゃん先輩が待機してますからね」
「あ、はい」
那月にそっと手を取られ、春歌は歩き出す。砂月は既に先行して歩いている。
耳にしているインカムに指示が来ているらしく、小声でマイクに何か返している様子をそっとうかがった後、春歌は横にいる那月に話しかけた。
「那月くん、美味しい紅茶をありがとうございました。おかげで落ち着いて演奏できそうです」
「たくさん練習したんですから、いつも通り弾けば大丈夫ですよ。客席から応援していますね」
うまくいきますように、と優しく握られたその手の甲に口づけを落とされ、春歌は思わず「ひゃっ」と声をあげてしまう。
「ふふふ、おまじないです」
「は、はい」
春歌より余程音楽の才能に溢れている彼からのおまじないである。いつも通りどころか、いつも以上の演奏になりそうな気がしてきた。
「……何してるの?」
「あ、藍ちゃん先輩」
砂月がドアを開き、そこから顔を出した藍がじっとりした目で那月を見つめている。藍は何やら怒っているようだが、悪びれた様子のない那月はにこにこ笑ってエスコートしていた春歌を藍に託す。
「じゃあハルちゃん、また後で」
「はい。行ってきます」
パタリ。
ドアが閉じれば薄暗闇が広がる。
「ハルカ、そこに階段があるから気をつけて」
「はい」
安定感抜群の藍の案内。一段ずつ階段を上がりながら、春歌の意識はゆっくりと熱気溢れる舞台へと向かっていった。
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