色々夢

□小話(白雲)
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小話2

主君の部屋から穏やかな話し声がしているのに気付き、趙雲は足を止めた。

主君は元々穏やかな人ではあるが、このように楽しげに会話ができる相手は、実は城内にあまりいないのだ。
少しの間躊躇ってから、結局趙雲は声をかけることにした。

「……公孫賛様、趙雲です」
「入りなさい」

すぐに許可が下りて、趙雲は部屋に踏み入れる。公孫賛の話し相手はやはりというか、朝から姿が見えなかった楊采であった。
台に乗っている袋から察するに薬を処方していたのだろうが、彼女はそのまま話し込んでいたようだ。

「楊采、ここに──!?」
「あ、そうだった趙雲にも聞こうと思ってたんだけど…どうした?」

楊采はここにきてからずっと女性らしく結い上げていた黒髪を背に流している状態で、趙雲はまず、その艶やかさに目を奪われた。だが、振り返った彼女を見た瞬間に覚えた違和感の正体に気付き、言葉を失っていた。

頭の上に、猫耳が、生えているのだ。

「どうだ趙雲? これつけてれば猫族の中に混じっても違和感ないと思わないか? 試作なんだけど、結構本物に近づいてきたんじゃないかと思って見て貰っていたんだ」
「私もこれは良い出来だと思うのだが、趙雲はどう思うかね?」
「え、ええ…良いと…思い、ます…」

にこにこ、にこにこ。
趙雲が衝撃を受けていることなど微塵も気にした様子もなく、二人は会話を続けている。
趙雲は息も絶え絶えに頷くしかなかった。だというのに、その答え方は楊采のお気に召さなかったらしい。
切れ長の美しい目が細められ、次の瞬間ふわりと距離が詰まる。
急激に近付いた猫耳からそっと目をそらした。

「こら、ちゃんと見なさい」
「無茶を言うな」
「何が無茶なんだ?」

ちらりと視線を落とせば、整った顔をきょとんとさせて、愛らしい黒い猫族と化した楊采がこちらを見ている。
とても似合っている。全く違和感がないほど似合っているせいで、その猫耳の出来がどうかなど、趙雲には判定不可能であった。

「その…すまん……俺には…」
「え?」

思わず目を覆って天を仰ぐも、楊采は離れていってくれない。
しかし、これ以上この姿を見せられたら確実に理性が吹き飛ぶのだ。趙雲は断固として目を覆う手を離すつもりはなかった。

「おい、趙雲?」
「楊采殿、そのくらいで。趙雲は瀕死のようだ」
「…?…え?」

主君の優しさが、とても身に沁みた。


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