色々夢

□小話(秋水)
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小話8

「はぁ…」

徐州に残り、国の守りを固めている趙雲。
彼にしては珍しく募る苛立ちが抑えられず、それが結果としてため息として吐き出されたのである。
文官たちが怯えながら通り過ぎていくのに気付いて、慌てて漏れていた殺気を収める。

劉備が拐われ、混乱する国をあっという間に建て直した楊采。関羽たちは彼女に連れられ、袁術が守っていた南陽を平定し、そして今は袁紹との戦いに参加している。
この戦で、中原の覇者は決まる。そんな大戦であるからか、今までにない程長引いているようだ。

もし、無事に切り抜けたとして、戦いを好まぬ彼ら猫族は、この先いったいどれだけ多くの戦に巻き込まれていくのだろうか。
その優しさ故に、身を削っていく彼らを、どうしたら支えてやれるだろうか。

やはり今すぐ、彼らの元に行きたい。今度こそ、後悔しないように。

「…おーい、趙雲。一人で暴走するなよ?」
「!!」

あるはずの無い声に驚愕を隠しきれず、趙雲は身構えながらそちらを見やる。
ここは、ちょうど城壁へと続く道の途中。その城壁の上から声がしていた。

「その声は…楊采か?」
「怖ーい顔してたぞー? 良い男がとてつもなく台無しだ!」

月を背に、城壁の淵に座っている黒い影。眩しい程の月明かりでよく見えないが、言動からも楊采であることは確かなようである。
目を細めて見上げていると、楊采はひょいと壁から飛び降り、趙雲のすぐ近くに着地した。
かなりの高さがあるのに、ほとんど音のない軽い着地だったので驚いた。
しかし、

「楊采、あんな高さから飛び降りたら危ないだろう」
「今、平気だったじゃないか。ちゃんと人が居ないところに降りたぞ。まあ、趙雲なら避けられただろうけど」

それは勿論目測を誤って下に居る人にぶつかったら危ないが、趙雲が言ったのはそういう意味ではない。 純粋に楊采の身を案じただけだ。
微妙にずれた回答に、苦笑が漏れる。

そんな彼を見て、楊采が微笑む。
どうやら気を遣わせたらしいとそれで分かり、すっかり凍りかけていた心がじわりと温かくなった。

「趙雲、済まなかったな、徐州の事を任せきりで」
「…いや。俺が望んだ事だ」

こんなにも劉備が見つからないとは信じられなかった、自身の甘さが招いたこと。
恥じて目を伏せた趙雲だったが、残念ながら楊采に無理矢理顔を覗き込まれてしまった。

月明かりで輝く切れ長の美しい目に、つい見惚れる。
それを知ってか知らずか、ニヤリと笑った楊采がその体勢のまま続けた。

「さて、趙雲。これからちょっと私の用事に付き合ってくれないか?」
「なに…?」

遠乗りにでも行こうと言うような、その誘い。しかしその奥にとてつもなく大きな企みがあるのを、趙雲の武将としての勘が嗅ぎとっている。

「というか、強制だから。行っくぞー♪」
「待て、楊采。せめて誰かに言伝てを…」
「書き置きしたから平気平気ー」

差し出されたと思った手は、趙雲が頷く前に彼の腕をがっしり掴んでいた。
楽しそうにぐいぐいと引っ張られ、彼は結局笑ってしまったのだった。





20170117
──────

「…という感じで、そのまま袁紹の元へ潜入したんだ」
「え、そんな軽い感じで!?」

楊采と趙雲が、どんないきさつで冀州へ潜り込んだのかを聞いて、あとでそんな会話があれば良いと思うんです。

本編用に書いてあったのですが割愛したので小話として載せます。
夏侯惇落ちルートですが、ここでの趙雲も間違いなくヒロイン楊采に惚れております設定。
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