色々夢

□白雲を抱く
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23-2

無言になった曹操の手がゆっくりとのびてきて、もしや頭を撫でられるのかと思いかけた、その時。
関羽の耳がよく知った足音を拾い、曹操も手を引っ込める。
振り返れば、まっすぐこちらを目指して戦場を駆けてくる男性が一人。

「世平叔父さん!」
「関羽、無事か!? 遅くなって済まなかったな」

世平も一応武器は持っていたものの、ここに着くまで一戦もしていないらしい。走ってきたせいで息を切らせてはいたが、傷ひとつないようだ。
彼はやってくるなり関羽の肩を引き寄せ、曹操に一礼している。

「あの、叔父さん…これ、どういう状況なの?」
「説明する間がなくて悪かった。とにかくまず、お前は彼らと戦う必要はない」
「え、で、でも…」
「劉備様は張飛たちが救出しに行っている。これは…そのための陽動みたいなもんだ」

つまりそれは、城の中に残る兵力を減らしたかったという事だろう。だが、いつの間にそんな事をしていたのだろう。それに、城内には董卓と呂布が残っている。
関羽の疑問は当然だと思ったのか、世平がニヤリと笑って教えてくれた。

「呂布も今、楊采がおさえてる。実はな、数日前から楊采は俺たちと一緒に行動してたんだ。お前には接触できなくて伝えられなかったが」
「…その楊采から合図が来れば、軍も撤退する。お前たちも遅れずに脱出しろ」
「ああ…恩に着る。曹操殿」
「こちらはこちらの思惑で動いているまで。礼を言う必要はない」

矢継ぎ早に言われて、正直何が何だか分からなかったが、交わされる会話を聞いているうちに、生きた心地がしてきたのがとても不思議だ。
楊采が来てくれている。
劉備が助けられる。
それが分かっただけで、胸が一杯になった。

「…曹操様、張遼が来ます。俺に行かせて下さい」
「うむ。合図を聞き逃さぬようにな」
「はいっ!」

夏侯惇が馬に飛び乗り、風を切って駆け出していく。世平に促され、関羽も猫族の元へ合流する事にした。

「曹操…あの」
「早く行け。こちらが張遼を押さえられるのも今だけだ」
「え、ええ…ありがとう」

きちんと礼を言いたかったが、そんな時間も必要もないと言いたげに追い払われてしまった。
ただ、そんなそっけない言葉を投げつつも曹操の表情は柔らかい。どこかくすぐったい気持ちを抱えて、関羽は走り出した。
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