色々夢

□白雲を抱く
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22-2

その書簡を託して逝った、楊采の部下。彼は、楊采の腕の中で人生を終えた。
楊采自身がこの地に来たのは、先に潜入していた部下が限界を迎えていたからだった。全てが無意味になる前に情報を受け取り、死なせてやらねばならないと彼女は言い、そして実行した。

お疲れ様、と言われた彼女の部下は、血を失って真っ白になった顔でとても嬉しそうに笑った。
きっと蘇双は、やりきった者にしかできないその笑顔を一生忘れる事はないだろう。

「…分かっている事は、今ので以上だ。これを聞いて、私の指示通り動ける意思のある者はどれくらいいる?」
「なっ…楊采、そんな言い方は…!」

声を上げたのは関定だ。その横で張飛は怒りに震えている。

「言葉遊びをするつもりはない。事態は急を要する。分かっているな? 私は、冷静に戦える奴しか連れていかない」
「楊采…」
「怒りに我を忘れて暴走する奴は一番ダメだ。そういう奴は非戦闘要員と一緒に長安から出ていって貰う。今すぐ準備しろよ」

そう告げる楊采の目は確実に張飛に向いている。冷酷とすら感じる声音は、楊采の本気を示すものである。これに負けたら絶対連れていっては貰えない。

「ボクは行くよ。必ず劉備様を取り戻して、関羽も連れて帰る」

蘇双は努めて冷静に告げた。楊采がちらりと横目にこちらを見たのが分かり、蘇双は体の向きを変えて真っ直ぐ受け止める。

「…良いだろう。ならば蘇双には、劉備殿の奪還の指揮をとって貰う。お前が信用できる戦闘要員を連れていけ。ただ、世平は関羽の救出に行くからそれ以外の奴な」
「え……楊采はどこに行くつもりなの? 関羽のところ?」
「いや…」

首を横に振ると、楊采はようやくいつもの不敵な笑みになった。それが逆に、蘇双に嫌な予感を覚えさせる。

「董卓と呂布の所だよ。あいつらが一番厄介なんだから、当然だろう」

やはり。
結局彼女が一番辛い道を選んでいるではないか。
彼女に見捨てられたら終わりだとすがったくせに、そんな彼女の決定に不満を覚える。
そんな自分の弱さが、許せなかった。
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