色々夢

□小話(共通√)
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小話5

反董卓連合軍が続々と集まる中、関羽は思いがけず趙雲と再開した。
それから早数日。彼は早速猫族と馴染み始めていた。

「へえー。じゃ、趙雲と楊采ってどっちが強いの?」

先日、趙雲と楊采が延々手合わせしていた事を聞いた張飛がそんな疑問を投げかけた。

関羽はうーん、と手合わせの時の事を思い出してみる。二人とも激しい戦いをしていた割に本気では無かった。

「二人ともとても楽しそうではあったけど…」

あの後、きっと楊采は夏侯惇から怒られたのだろう。
兵の鍛練を放り出して何をしているのだ、と止めに入った夏侯惇が怒鳴りながら彼女を引きずって行ってしまった。そして楊采は悪びれもせず適当に聞き流していたに違いない。

ともかく答えあぐねていると、近くにいた趙雲自身が朗らかな笑顔で口を開いた。

「相当強いと思うぞ、楊采は。何しろ戦で負けなしだからな」
「げ、そうなんだ…」
「だが、俺は負けるつもりは無い。勝負は次に持ち越しだ」

趙雲が強いだろうというのは、雰囲気で分かる。穏やかで真っ直ぐな好青年といった空気を纏っているのにまず隙がない、というのが関羽の第一印象だった。
楊采は楊采で、くるくると表情が変わる。普段の言動では先が全く読めない事が多く、戦いの中でもそうだとすれば、二人とも、相手にしたくない厄介なタイプだと言える。

「なあ、今度手合わせしようぜ」
「ああ、良いぞ! 今からどうだ?」
「今から? いや、あんたどんだけ体力あんの?」
「鍛えているからな、まだまだ平気だ」
「うへぇ…人間怖え…」

趙雲を人間の基準にするな、とこの場に他の人間がいたら注意できただろうが、生憎ここは猫族の幕舎である。
趙雲と張飛がそんなやり取りをする中、関羽は勝手に楊采との手合わせの様子を思い浮かべてげんなりしていて、二人の会話は聞こえていない。

不意に、傍でうつらうつらしていた劉備が服を引っ張ってきた。

「うにゃー…」
「あ、劉備、もう寝る?」
「ううん…あのね、思い出したの…」

一生懸命目を擦り、劉備が話しはじめた。

「あのね、曹操が言ってたのはね、楊采なんだって」
「? 何が楊采なんだよ、劉備」
「んーとね、つよいの」
「曹操軍で一番ということか?」

趙雲が訊ねると、劉備がううん、と首を振る。

「一番は、曹操なの。次が、楊采なの」
「へえー、曹操が自分で言ったのかよ?」
「うん」
「それはそれで曹操のヤローがなんかむかつくな」
「でも、確かに曹操って強いのよね…」
「う…まぁな…」

黄巾賊討伐、そして董卓の屋敷で曹操が戦う所を間近で見てきたので、関羽は彼の強さを知っている。
張飛も同じだったらしく、反論せずに言葉を濁す。

「あとね、楊采はおかし作るのじょうずなの。それから、お勉強も教えてくれるし、いっぱいほめてくれるよ!」
「劉備…お前楊采のこと大好きだな」
「うん!」

張飛に指摘されて、劉備が元気に頷く。人質としてではあっても、洛陽で過ごした日々は劉備にとって大きな経験になったようだ。
猫族の中で誰よりも彼女の傍にいた彼が楊采を信じているから、関羽も彼女の事を信じられるようになった。
今では、楊采は関羽にとっても大事な友人と言える存在だ。
趙雲が朗らかに笑う。

「そうか。劉備殿も楊采が好きか」
「うん。あっ…でも!」

劉備が慌てたように関羽を見た。

「一番大好きは関羽だからね!」
「ふふ。ありがとう、劉備。私も劉備が一番よ」

ぎゅ、とお互いを抱きしめる。
これから戦があるのは辛いが、お陰で劉備が帰ってきて一緒に過ごせるのは本当にありがたい。

仲間外れにされたからか、張飛が半眼でこちらを見てくる。なによ、と見返すと不機嫌に目を反らされてしまった。

「…ちぇ」
「ははは、頑張れよ、張飛」
「張飛は次に好きだよ!」
「いや、今の趙雲の頑張れはそういう意味じゃ…あー、まぁいいや、ありがとよ劉備」
「?」

劉備が首を傾げて関羽を見るが、彼女もよく分からないので首を振る。
それを見て、張飛が更に肩を落としていた。
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