色々夢
□小話(共通√)
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小話3
案内された部屋に入ると、劉備がぱぁっと顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「関羽! いらっしゃい!」
「劉備、元気だった?」
「うん!」
しっかり抱き止めて、関羽は劉備の頭を撫でる。劉備が気持ち良さそうに目を細めた。
「楊采は、今日いないのね」
「うん。きょうはね、おでかけだって」
「そうなの」
どうやら入れ違いになってしまったようだ。
まだ、関羽は楊采としっかり話をしたことはない。
ただ、劉備の監視から黄巾賊討伐指揮等々、曹操から様々な仕事を命じられているのは確かで、軍というものの仕組みは知らないがきっと有能な将なのだろう。
猫族の武具の手配をしてくれたのも彼だが、急な命令だったのにどれも実用性と耐久性に優れた一級品だった。
そんな彼が先日、ふらりと幕舎にやって来て、劉備が菓子を食べたがっているからと材料を置いていった。
そして、関羽が劉備にいつでも会えるよう、屋敷の人々に話も通してくれていた。
彼はどうやら、他の人間たちのように猫族を蔑む事をしない。それだけは分かった気がするのだ。
「あのね、楊采から聞いて、劉備にお菓子を作ってきたのよ」
「わーい!いただきまーす!」
「はい、召し上がれ」
包みを広げてやると、劉備が満面の笑みで菓子を頬張り始める。
微笑ましく思いながら、関羽はそっと訊ねてみた。
「ねえ、劉備。楊采って、どんな人かしら?」
「ん? やさしいよ?」
「そう…ええと、他には?」
面白い話をしてくれる、散歩に連れていってくれる、転びそうになると助けてくれる、勉強を教えてくれる、と指折り挙げていく彼はとても楽しそうだ。
「あと、それとね…あっ」
「え?」
何か言いかけて、劉備が口をつぐむ。首を傾げていると、背後で扉が開いた。
楊采だろうか。
そう思いながら振り返った関羽は予想外の訪問者に少なからず驚いた。
「あ、えっ! 曹操!?」
「何をそのように驚く。ここは私の屋敷なのだぞ」
「それは、そうなのだけれど」
だからと言って、まさか人質の元に一人でやって来るとは思わないではないか。
という不満をとりあえず飲み込み、関羽は様子を伺う。
劉備の元まで歩いてきて、曹操は机の上に広がる菓子に目を留めた。
「……これは、関羽が作ったのか?」
「え、ええ…そうよ」
「そうか。ならば良い」
そう言う曹操が手に持って出しかけた何かを再びしまう。
「何か持ってきてくれたんじゃないの?」
「ああ。だが、これ以上間食すると夕餉が入らなくなるであろう。それはならん」
「そ…そうね」
頷きながら、関羽は曹操が当初人質は丁重に扱うと言っていたのを思い出した。
この屋敷にいると、劉備はどんどん貴族教育されていってしまいそうな気がする。猫族の長でもあるし本当は良いことなのだろうが、とても不思議な待遇だ。
「今ね、よーさいのことをお話ししてたの。とってもやさしいよって!」
「楊采の? ふっ…そうか。あれは優しいか」
「うん! でもかこーえんには、きびしいの」
「それは、夏侯淵が何か悪さをしたのだろう。理由もなく厳しくなどしない」
「そうなのかなぁ…」
劉備が一生懸命話すのを、曹操が穏やかに聞いて答えている。まるで、師弟か親子のようなやり取りだ。
何とも言えない光景を前に黙っていると、不意に曹操が関羽に目をやり、話を切り上げた。
「邪魔したな」
「あっ、でも私も、もう帰るわ」
「うん、また来てね、関羽!」
「ええ、またね」
劉備に見送られながら曹操と一緒に部屋を出て、廊下を歩く。
「ねえ、曹操。楊采がいないと聞いたのだけど…」
「ああ。外回りに出ている。戻りは遅くなるだろう」
「外回り?」
「政の内容を言ってもお前には分からぬかも知れぬが…平たく言えば、武力に頼らぬ、他諸侯への牽制だ」
「牽制…」
武力ではないとしたら、今頃楊采は舌戦を繰り広げているのだろうか。
関羽の生きてきた環境と離れすぎてとても想像がつかないけれど。
「そんな凄いことさせてるなんて、信頼しているのね」
「当然だ。あれは私が一から育て上げた将。大抵の事は一人でやってのける」
「……」
「何を不安がる? 劉備は確かに人質だが、私が最も信を置く楊采に世話を任せたのだぞ」
「……ええ」
自分では、今の気持ちをうまく言い表せない。だが、曹操には不安がっているように見えたようだ。
曖昧な相槌を打っていたら、曹操が立ち止まって、関羽を振り返った。その口元は緩やかな弧を描いている。
「洛陽にとどまっていれば楊采と話す機会も増えよう。少なくとも楊采はお前を気に入っているようだ」
「えっ?」
「ではな。残党討伐に励め」
気付くと、関羽は門の前に到着していた。
曹操の後をついてきていただけなので、知らぬ間に連れて来られていたらしい。
「はぁ…帰ろう」
悪い人ではないし、曹操が褒めるのだからやはりとても優秀なのだろう。
なのに、自分は何をこんなに気にしているのだろう。
漠然とした思いを抱えつつ、関羽は帰途についたのだった。
*出会って間もない頃
関羽は劉備が楊采になついているので ちょっぴり嫉妬している。
そして劉備は楊采が女だと気付いているという設定。