色々夢

□秋水の誓い
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6-1

勢いよく洛陽を発った曹操軍の歩みを止めたのは、黄河の流れだった。
朝霧もあって対岸は見えないが、ここを渡らなければ董卓がいるであろう城へ辿り着くことはできない。

「この霧に乗じて渡るのだ。舟を用意せよ」

曹操の命で、小舟が用意される。董卓軍が待ち構えている可能性もあるため、慎重に渡る必要がある。

「先行は夏侯惇と楊采に任せる。周囲の警戒を怠るな」
「はっ!」

早速、二人と数名の兵士を乗せ、第一陣の舟が進み始める。それぞれが背中合わせに乗り込み、辺りの気配を探る。
しかし、拍子抜けするほど静かな渡河となり、襲撃を受けることなく舟が接岸できる距離まで来ることができた。
ひょいと、身軽な楊采が舟から飛んで陸地に降り、舟から伸ばした縄を引いて接岸させる。

「うーん、今のところ、それらしい気配はないような…」
「チッ。霧が濃すぎて勘が鈍るな」

夏侯惇も続いて陸に上がるが、遠くまで視野が広がらない。楊采の指示で、一緒に降りた兵士が数人、霧の先へ進んで行く。
渡河は、残りの兵士、そして最後に 曹操、関羽、夏侯淵が共に舟に乗り込んで渡る手筈となっている。

意見を求めようと楊采を見るのと同時に、先に行った兵の悲鳴が聞こえてきて、二人は目を見開いた。
やはり、待ち伏せされていたのか。
楊采が悲鳴の上がった方へと駆け出していく。

「敵襲!! 敵襲ー!!! 曹操様! お退き下さい!!」

夏侯惇は力の限り叫んだ。戻って知らせるため中にいた兵士に伝令を命じるや舟を岸から離し、夏侯惇も楊采の後を追う。
霧の中、見覚えのある黒装束を見つけ、夏侯惇は更に走る速度を上げた。

「楊采!」
「右! 毒矢だ!!」
「!」

短く鋭いその声に反応し、夏侯惇は飛んできた矢を叩き落とす。が、矢は一本ではなく次々飛んでくる。己の感覚を頼りに避けながら、どうにか楊采に追い付いた頃には、すっかり取り囲まれているようだった。
残念だが、先程の兵士は助けられなかったと判断するしかない。

「他の兵は?」
「一旦戻らせた。俺たちはここを突破するぞ!」
「わかった」

楊采の目が素早く周囲に向けられ、一点で止まる。そこが、敵を掻い潜る唯一の道という訳だ。
目が合い、夏侯惇が頷いてみせると楊采がにやりと笑う。

「行くぞ! はあああああ!!」

夏侯惇が飛び出し、楊采が後に続く。こういう状況で、互いの癖を把握しているかどうかはとても重要だ。曹操は、それも考えた上で二人を先行に命じたのだろう。楊采が後ろにいる限り、夏侯惇はそちらからの攻撃を気にする必要がない。
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